イエスはデカポリスから戻もどってきました。ガリラヤの海うみの沿えん岸がんの北ほく西せい部ぶに住すんでいるユダヤ人じんたちの間あいだに，その知しらせが広ひろがります。最さい近きんイエスが嵐あらしの際さいに風かぜと波なみを静しずめたことは大おお勢ぜいの人ひとに知しられていたでしょう。邪じゃ悪あくな天てん使しに取とりつかれた男だん性せいを癒いやしたことも伝つたわっていたかもしれません。そのため，恐おそらくカペルナウムの海うみ辺べに，「大おお勢ぜいの人ひと」が集あつまりイエスを迎むかえます。（マルコ 5:21）イエスが浜はま辺べに立たつと，人ひと々びとの期き待たいは高たかまります。

会かい堂どうの主しゅ宰さい役やく員いんヤイロも，ぜひともイエスに会あいたいと思おもってそこにいます。ヤイロはイエスの足あし元もとにひれ伏ふし，「私わたしの娘むすめは今いまにも死しにそうです。元げん気きになって生いきられるよう，おいでになって手てを置おいてやってください」と何なん度ども頼たのみます。（マルコ 5:23）まだ12歳さいのかわいい一人ひとり娘むすめをどうか助たすけてほしいという心こころからの訴うったえに，イエスはどう応おうじるでしょうか。（ルカ 8:42）

イエスはヤイロの家いえに向むかいますが，その途と中ちゅう，心こころを動うごかされる別べつの出で来き事ごとが生しょうじます。大おお勢ぜいの人ひとたちは別べつの奇き跡せきを見みられるのではないかと，興こう奮ふんしながらイエスに付ついていきます。しかし，1人ひとりの女じょ性せいだけは様よう子すが違ちがいます。自じ分ぶんの深しん刻こくな病びょう気きのことで頭あたまがいっぱいなのです。

このユダヤ人じんの女じょ性せいは12年ねん間かん，出しゅっ血けつに悩なやまされています。たくさんの医い者しゃに診みてもらっていろいろな治ち療りょうを受うけた結けっ果か，お金かねを使つかい果はたしてしまいました。しかし良よくなりません。「かえって悪わるくなっていた」のです。（マルコ 5:26）

その女じょ性せいは病びょう気きで体たい調ちょうが悪わるくなっていただけでなく，人ひとに言いえないような恥はずかしさも感かんじていました。普ふ通つうはそうした症しょう状じょうのことを人ひと前まえで話はなすことはしないでしょう。さらにモーセの律りっ法ぽうによれば，血ちの流りゅう出しゅつがある間あいだ，女じょ性せいは儀ぎ式しき的てきに汚けがれた人ひととなります。その女じょ性せいや女じょ性せいの血ちで汚けがれた服ふくに触ふれるなら，水みずを浴あびなければならず，夕ゆう方がたまで汚けがれた人ひととされました。（レビ記き 15:25-27）

「イエスの評ひょう判ばんを聞きい」た女じょ性せいは，ずっとイエスを捜さがしていました。自じ分ぶんが汚けがれていることを知しっているので，できるだけ目め立だたないように人ひと混ごみの中なかを進すすみ，「あの方かたの外がい衣いに触さわるだけで良よくなる」と自じ分ぶんに言いい続つづけます。そして，イエスの外がい衣いの裾すそに触さわります。すると，出しゅっ血けつが止とまったことをすぐに感かんじ取とります。ついに「悲ひ痛つうな病びょう気きが癒いやされた」のです。（マルコ 5:27-29）

その時とき，「触さわったのは誰だれですか」とイエスが言いいます。これを聞きいた女じょ性せいがどう思おもったか想そう像ぞうできますか。ペテロは，そんなことは分わかるはずがないというニュアンスで，「人ひと々びとがあなたを囲かこんで群むらがっているのです」と言こと葉ばを返かえします。では，「触さわったのは誰だれですか」とイエスが尋たずねたのはなぜでしょうか。イエスはこう説せつ明めいします。「誰だれかが私わたしに触さわったのです。私わたしから力ちからが出でていきました」。（ルカ 8:45，46）癒いやしを行おこなうと力ちからを奪うばわれるのです。

女じょ性せいは気き付づかれずには済すまなかったことを知しると，恐おそれて震ふるえながらイエスの前まえにひれ伏ふします。そして，人ひと々びとの前まえで，自じ分ぶんの病びょう気きのことと，たった今いま癒いやされたことをありのままに話はなします。するとイエスは優やさしく安あん心しんさせるように，「あなたが良よくなったのは信しん仰こうがあったからです。安あん心しんして行いきなさい。悲ひ痛つうな病びょう気きは治なおりました」と言いいます。（マルコ 5:34）

この出で来き事ごとから，地ちを支し配はいさせるために神かみが選えらんだのは，温あたたかく思おもいやりのある方かただということが分わかります。人ひと々びとを気き遣づかうだけでなく，実じっ際さいに助たすける力ちからも持もっているのです。