1941年ねん，私わたしはフランスのパリで生うまれました。家か族ぞくはそれほど裕ゆう福ふくではありませんでした。私わたしは勉べん強きょうが大だい好すきでした。それで，10歳さいで結けっ核かくになって学がっ校こうに行いけなくなった時ときには，本ほん当とうにがっかりしました。医い師しからは，肺はいに負ふ担たんを掛かけないためにベッドから出でないようにと言いわれました。それで，数すうカ月げつの間あいだ，辞じ書しょを読よんだり，パリ大だい学がくのラジオ･ソルボンヌの番ばん組ぐみを聞きいたりして過すごしました。医い師しから，もう治なおったからまた学がっ校こうに行いってもよい，と言いわれた時とき，とてもうれしかったです。「お医い者しゃさんってすごい！」と思おもいました。その時とき以い来らい，病びょう気きの人ひとを治なおすことが私わたしの夢ゆめになりました。父ちち親おやから，大人おとなになったら何なにがしたいかと聞きかれた時ときには，「お医い者しゃさんになりたい」といつも答こたえていました。医い学がくに心こころを奪うばわれていたんです。

私わたしたちの家か族ぞくはカトリックでした。でも，私わたしは神かみについてあまりよく分わかっていませんでした。いろいろな疑ぎ問もんがありました。大だい学がくで医い学がくを勉べん強きょうするようになってからようやく，生せい命めいが創そう造ぞうされたことを確かく信しんするようになりました。

チューリップの細さい胞ぼうを顕けん微び鏡きょうで初はじめて観かん察さつした時ときのことを今いまでも覚おぼえています。細さい胞ぼうに暑あつさや寒さむさから自じ分ぶんを守まもる能のう力りょくがあることを知しって，感かん心しんしました。また，細さい胞ぼう質しつ（細さい胞ぼうの内うち側がわにある物ぶっ質しつ）が塩えん分ぶんに触ふれると収しゅう縮しゅくし，真ま水みずに触ふれると膨ぼう張ちょうする，ということも知しりました。こうしたたくさんの能のう力りょくがあるおかげで，生せい物ぶつはさまざまな環かん境きょうに順じゅん応のうすることができます。細さい胞ぼうのこうした複ふく雑ざつな仕し組くみについて考かんがえると，生せい命めいは偶ぐう然ぜんに生しょうじたわけではないと思おもいました。

 医い学がくを学まなび始はじめて2年ねん目めに，神かみがいるという証しょう拠こについてさらに知しりました。解かい剖ぼう学がくの授じゅ業ぎょうの時ときのことです。前ぜん腕わんによって指ゆびを曲まげたり伸のばしたりできる，ということを学まなびました。筋きん肉にくや靱じん帯たいや腱けんは，絶ぜつ妙みょうな位い置ち関かん係けいにあります。例たとえば，前ぜん腕わんの筋きん肉にくから指ゆび先さきの2番ばん目めの骨ほねに向むかって伸のびる腱けんは，先せん端たんで2つに分わかれて橋はしのようになっています。そしてその間あいだを，指ゆび先さきの骨ほねにつながる腱けんが通とおっており，指ゆびの曲まげ伸のばしに合あわせて滑すべるように動うごきます。また，指ゆびの骨ほねと腱けんは非ひ常じょうに丈じょう夫ぶな組そ織しきでつながっています。これらの仕し組くみがなければ，手ての腱けんはぴんと張はったような弓ゆみの弦つるのようになってしまい，指ゆびを曲まげたり伸のばしたりすることはできません。こうしたことを考かんがえると，人にん間げんの設せっ計けい者しゃは本ほん当とうに賢かしこいと感かんじました。

私わたしは，赤あかちゃんが生うまれるプロセスについて学まなんで，命いのちを設せっ計けいした方かたを称しょう賛さんする気き持もちがますます深ふかまりました。健けん康こうな胎たい児じは，へその緒おを通とおして母はは親おやから酸さん素そを受うけ取とっています。それで，肺はい胞ほう（肺はいの中なかの小ちいさな袋ふくろ状じょうの部ぶ分ぶん）はまだ膨ふくらんでいません。しかし，誕たん生じょうが近ちかづくと，肺はい胞ほうの表ひょう面めんに界かい面めん活かっ性せい物ぶっ質しつが分ぶん泌ぴつされます。そして誕たん生じょう後ごには，産うぶ声ごえとともに驚おどろくべきことが次つぎ々つぎと生しょうじます。心しん臓ぞうの穴あながふさがり，肺はいに血けつ液えきが流ながれ込こむようになります。界かい面めん活かっ性せい物ぶっ質しつのおかげで，肺はい胞ほうは互たがいにくっついてしまうことなく膨ふくらんで，空くう気きを十じゅう分ぶんに取とり込こむことができます。こうして，赤あかちゃんはあっという間まに自じ力りきで呼こ吸きゅうできるようになるのです。

私わたしは，こうした素す晴ばらしいものを創そう造ぞうした方かたについてもっと知しりたいと思おもいました。それで，聖せい書しょを真しん剣けんに読よみ始はじめました。3000年ねん以い上じょう前まえに神かみがイスラエル国こく民みんと結むすんだ契けい約やくの中なかにある，衛えい生せいに関かんするおきてについて知しって，本ほん当とうにすごいと思おもいました。神かみは，排はいせつ物ぶつを埋うめることや，手てや体からだを洗あらうこと，感かん染せん症しょうの症しょう状じょうがある人ひとを隔かく離りすることなどを命めいじていました。（レビ 13:50; 15:11。申しん 23:13）聖せい書しょには，科か学がく者しゃが最さい近きんの数すう百ひゃく年ねんになってようやく理り解かいしたことが書かかれているのです。また，レビ記きにある性せいに関かんする衛えい生せいについてのおきては，イスラエル全ぜん体たいの健けん康こうに役やく立だつものでした。（レビ 12:1-6; 15:16-24）人ひとを造つくった神かみがイスラエル人じんの幸しあわせを願ねがってこうしたおきてを与あたえたことや，それに従したがうなら祝しゅく福ふくされた，ということも分わかりました。私わたしはこうしたことを知しって，聖せい書しょは神かみに導みちびかれて書かかれた本ほんだと思おもいました。それでも，神かみの名な前まえはまだ知しりませんでした。

私わたしは，医い師しを目め指ざして大だい学がくで勉べん強きょうしていた時ときにリディという若わかい女じょ性せいと出で会あい，恋こいに落おちました。そして，在ざい学がく中ちゅうの1965年ねんに，リディと結けっ婚こんしました。1971年ねんまでに3人にんの子こ供どもが生うまれ，その後ごさらに3人にんの子こ供どもに恵めぐまれました。リディは，私わたしが医い師しとして働はたらく面めんでも，家か庭ていにおいても，良よい支ささえになってくれています。

私わたしは病びょう院いんで3年ねん勤つとめた後あと，自じ分ぶんのクリニックを開かい業ぎょうしました。開かい業ぎょうしてから間まもなく，冒ぼう頭とうで述のべた1組くみの夫ふう婦ふが診しん察さつを受うけにやって来きました。私わたしがご主しゅ人じんのために処しょ方ほう箋せんを書かいていると，奥おくさんから，「先せん生せい，血けつ液えきが含ふくまれる薬くすりは使つかわないでいただけます か」と言いわれました。私わたしが驚おどろいて，「えっ，どうしてですか」と尋たずねると，奥おくさんは「私わたしたちはエホバの証しょう人にんなんです」と答こたえました。私わたしはそれまで，エホバの証しょう人にんのことも，エホバの証しょう人にんが血ちに対たいしてどんな見み方かたをしているかも聞きいたことがありませんでした。それで，奥おくさんは聖せい書しょを取とり出だして，自じ分ぶんたちがどうして血ちを避さけるのかについて教おしえてくれました。（使し徒と 15:28，29）また，2人ふたりは神かみの王おう国こくが苦くるしみや病びょう気きや死しをなくす，ということについても話はなしてくれました。（啓けい 21:3，4）それを聞きいて，私わたしは思おもわずこう言いいました。「私わたしの子こ供どもの頃ころの夢ゆめがかなうってことですね！ 私わたしは苦くるしんでいる人ひとを助たすけたいと思おもって医い師しになったんです」。私わたしはすごく関かん心しんがあったので，結けっ局きょくこの2人ふたりと1時じ間かん半はんも話はなしてしまいました。2人ふたりが帰かえる頃ころには，カトリックはもうやめよう，と思おもっていました。私わたしが心こころからたたえていた創そう造ぞう者しゃには，エホバという名な前まえがあることを知しったのです。

この夫ふう婦ふとはクリニックで3回かい会あい，そのたびに1時じ間かん以い上じょう話はなしました。私わたしは，この夫ふう婦ふと聖せい書しょについてもっとゆっくり話はなしたいと思おもったので，家いえに来きてもらうことにしました。リディは，一いっ緒しょに聖せい書しょを学まなぶことには応おうじたものの，ずっと教おしえられてきたカトリックの教おしえの幾いくつかが間ま違ちがっているということは，なかなか受うけ入いれられませんでした。それで，私わたしは主しゅ任にん司し祭さいに家いえに来きてもらい，3人にんで夜よる遅おそくまで話はなし合あいました。教きょう会かいの教おしえについて，聖せい書しょだけを使つかって話はなし合あったのです。その結けっ果か，リディはエホバの証しょう人にんが真しん理りを教おしえているということを確かく信しんしました。エホバ神かみに対たいする私わたしたちの愛あいは深ふかまっていき，1974年ねんに2人ふたりともバプテスマを受うけました。

私わたしは，神かみが人にん間げんのためにどんなことを考かんがえているかを知しって，優ゆう先せん順じゅん位いを大おおきく変かえました。私わたしとリディにとって，エホバに仕つかえることが人じん生せいの中なかで一いち番ばん大だい事じなことになりました。また私わたしたちは，聖せい書しょの基き準じゅんに従したがって子こ供どもたちを育そだてることを心こころに決きめました。子こ供どもたちに，神かみと隣りん人じんを愛あいするように教おしえ，その結けっ果か，家か族ぞくは一いっ致ちの絆きずなで結むすばれました。（マタ 22:37-39）

思おもい出だしては2人ふたりで笑わらうことがあるのですが，子こ供どもたちは私わたしたちの意い見けんがいつも一いっ致ちしているということをよく分わかっていました。イエスが述のべた，「『はい』は，はいを，『いいえ』は，いいえを意い味みするようにしなさい」という言こと葉ばが，わが家やのルールになっていることも知しっていました。（マタ 5:37）例たとえば，長ちょう女じょ が17歳さいだった時ときのことです。リディは娘むすめが若わかい子こたちと一いっ緒しょに出で掛かけることを許ゆるしませんでした。グループの中なかのある子こが，「お母かあさんがだめだって言いうなら，お父とうさんに聞きいてみたら？」と言いいましたが，娘むすめはこう言いいました。「そんなことをしたって意い味みないよ。お父とうさんとお母かあさんの意い見けんが違ちがうことなんてないんだから」。6人にんの子こ供どもたちは，私わたしたちが聖せい書しょの教おしえを当あてはめる面めんで同おなじ意い見けんを持もっていることを理り解かいしていました。現げん在ざい，子こ供どもたちの家か族ぞくを含ふくめ，大おお勢ぜいの親しん族ぞくと一いっ緒しょにエホバにお仕つかえできているのは，本ほん当とうにうれしいことです。

真しん理りを知しった私わたしにとって，医い学がくは一いち番ばん大だい事じなものではなくなりました。でも私わたしは，医い師しとして学まなんだことを活かつ用ようして仲なか間まの兄きょう弟だい姉し妹まいを助たすけたいと思おもいました。それで，自じ分ぶんから申もうし出でて，最さい初しょはパリのベテルに，現げん在ざいはルビエのベテルに通かよって，医い師しとして奉ほう仕ししています。もうかれこれ50年ねんになります。この奉ほう仕しを通とおして，何なん人にんものベテル奉ほう仕し者しゃと親したしい友とも達だちになることができました。中なかには，現げん在ざい90代だいの人ひとたちもいます。大たい変へん驚おどろいたこともありました。新あたらしくベテルに来きた兄きょう弟だいと会あったのですが，その人ひとは何なんと私わたしが20年ねん前まえに出しゅっ産さんの手て助だすけをして生うまれた子こだったんです。本ほん当とうにうれしかったです。

私わたしは長なが年ねんにわたって，エホバが組そ織しきを通とおしてご自じ分ぶんに仕つかえる人ひとたちを導みちびき，守まもっている様よう子すを見みてきました。それで，ますますエホバを愛あいするようになっています。例たとえば，1980年ねん代だいの初はじめに，統とう治ち体たいはアメリカにおいて，医い療りょう関かん係けい者しゃにエホバの証しょう人にんに対たいする理り解かいを深ふかめてもらうための取とり組くみを始はじめました。

そして1988年ねんに，統とう治ち体たいはベテルにホスピタル･インフォメーション･サービスという新あたらしい部ぶ門もんを立たち上あげました。当とう初しょこの部ぶ門もんは，アメリカ国こく内ないの医い療りょう機き関かん連れん絡らく委い員いん会かい（HLC）を監かん督とくし，エホバの証しょう人にんの患かん者じゃがふさわしい医い療りょうを受うけられるように助たすけました。後のちに，この取とり決きめが世せ界かい中じゅうに広ひろげられ，フランスにもHLCが設せっ置ちされました。私わたしは，助たすけを必ひつ要ようとしている病びょう気きの兄きょう弟だい姉し妹まいをエホバの組そ織しきが愛あい情じょう深ぶかく支ささえる様よう子すを見みて，感かん激げきしました。

私わたしは医い学がくに心こころを奪うばわれていましたが，優ゆう先せん順じゅん位いを見み直なおしました。そして，医い師しとして人ひとを助たすけることよりも，命いのちの源みなもとであるエホバ神かみを知しって，その方かたに仕つかえるよう助たすけることの方ほうが重じゅう要ようだ，ということを理り解かいしました。現げん役えきを退しりぞいてからは，リディと一いっ緒しょに開かい拓たく奉ほう仕しを行おこない，毎まい月つき多おおくの時じ間かんを使つかって王おう国こくの良よい知しらせを伝つたえました。今いまでも，命いのちを救すくうこの活かつ動どうに2人ふたりでできるだけ多おおく参さん加かしています。

私わたしは今いまでも，医い師しとしてできることを行おこない，病びょう気きの人ひとたちを助たすけています。でも，私わたしにできるのは一いち時じ的てきに助たすけることにすぎません。そして，どれほど腕うでの良よい医い師しも，全すべての病びょう気きを治なおしたり，死しをなくしたりすることはできません。それで，苦く痛つうや病びょう気きや死しが全まったくなくなる時ときを本ほん当とうに楽たのしみにしています。間まもなくやって来くる新あたらしい世せ界かいでは，素す晴ばらしい造つくりの人じん体たいをはじめ，エホバが創そう造ぞうしたものについて永えい遠えんにわたって学まなぶことができます。私わたしの子こ供どもの頃ころの夢ゆめが完かん全ぜんにかなえられる時ときが，間まもなく来こようとしているのです。その時ときが本ほん当とうに待まち遠どおしいです。