爆ばく撃げきが終おわってから，母ははと一いっ緒しょに母ははの親しん友ゆうを探さがしに行いきました。でもその親しん友ゆうは爆ばく撃げきで亡なくなっていました。私わたしと母はははそのことを知しってショックを受うけ，怖こわくなりました。数すう日じつ後ご，また空くう爆ばくが始はじまりました。父ちちは私わたしをつかんで，自じ転てん車しゃのハンドルとサドルの間あいだにあるバーに座すわらせ，全ぜん速そく力りょくで町まちから逃にげました。

 第だい2次じ世せ界かい大たい戦せんの戦せん火かはイタリア中じゅうを包つつんでいました。その頃ころのことは今いまでも鮮せん明めいに覚おぼえています。でも私わたしの生いき方かたに影えい響きょうを与あたえたのは，小ちいさい時ときから今いまに至いたるまでに出で会あった，エホバを深ふかく愛あいする人ひとたちです。

真しん理りという贈おくり物もの

 1936年ねんの冬ふゆ，私わたしが生うまれる数すうカ月げつ前まえのことでしたが，父ちちはビンチェンツォ･アルトゥージという人ひとと，仕し事ごとで線せん路ろの雪ゆきかきをしていました。ビンチェンツォはまだバプテスマを受うけていませんでしたが，聖せい書しょの真しん理りを深ふかく愛あいしていました。作さ業ぎょうしながら，ビンチェンツォは聖せい書しょから学まなんだことを父ちちに話はなしました。

 父ちちはすぐにそれが真しん理りだと確かく信しんしました。私わたしたちが住すんでいた町まちファエンツァには，父ちちのほかにも聖せい書しょについてもっと知しりたいと思おもう人ひとたちがいました。当とう時じはファシストの迫はく害がいがあったので，エホバの証しょう人にんは表おもて立だって集しゅう会かいを開ひらくことができませんでした。また，聖せい書しょ文ぶん書しょを持もっていると逮たい捕ほされることもありました。中なかには収しゅう監かんされている人ひともいました。それで父ちちは何なん人にんかの友ゆう人じんと一いっ緒しょに，人ひと里ざと離はなれた場ば所しょにある家いえで集あつまって，聖せい書しょを読よみ，持もっていた出しゅっ版ぱん物ぶつを勉べん強きょうしました。また，父ちちは毎まい週しゅう一ひと晩ばん，家か族ぞくで聖せい書しょを学まなぶ時じ間かんを取とっていました。

良よい手て本ほんという贈おくり物もの

 1943年ねん，宗しゅう教きょう活かつ動どうを理り由ゆうに収しゅう監かんされていたエホバの証しょう人にんのうち，ほとんどが釈しゃく放ほうされました。その中なかにマリア･ピッツァートという独どく身しんの姉し妹まいがいました。マリアはイタリア北ほく部ぶの自じ宅たくに戻もどる途と中ちゅう，私わたしの家いえに泊とまってくれました。当とう時じ，イタリアでの活かつ動どうを監かん督とくしていたのはスイス支し部ぶで，マリアはエホバの証しょう人にんの文ぶん書しょを受うけ取とったり連れん絡らくを取とったりする上うえで，重じゅう要ような役やく割わりを果はたしていました。か弱よわく見みえましたが，実じっ際さいは強つよくて勇ゆう気きのある女じょ性せいでした。戦せん争そうが終おわった後あとも，マリアはたびたびファエンツァに来きてくれて，とても良よい時ときを過すごすことができました。

 アルビナ･クミネッティ姉し妹まいのことも懐なつかしく思おもい出だします。アルビナは年ねん配ぱいのやもめの姉し妹まいで，私わたしが10代だいの頃ころ，集しゅう会かいが開ひらかれていた建たて物ものに住すんでいました。姉し妹まいは1920年ねん代だい前ぜん半はんからイタリアでコルポーター（全ぜん時じ間かんの伝でん道どう者しゃ）として奉ほう仕ししていました。そういう初しょ期きの頃ころの伝でん道どうについて，わくわくするような話はなしをよく聞きかせてくれました。

 アルビナは，古ふるい出しゅっ版ぱん物ぶつや昔むかしのものをいろいろ持もっていました。ある日ひ，聖せい書しょ研けん究きゅう者しゃたち（当とう時じエホバの証しょう人にんはそう呼よばれていた）がかつて身みに着つけていた十じゅう字じ架かと冠かんむりのピンバッジが目めに留とまりました。私わたしは十じゅう字じ架かが異い教きょうに由ゆ来らいすると知しっていたので，思おもわず笑わらってしまいました。それに対たいしてアルビナは，ゼカリヤ 4章しょう10節せつにかけて「小ちいさな事ことの日ひを侮あなどっちゃ駄だ目めよ！」と言いいました。その言こと葉ばは今いまでも忘わすれられません。

 私わたしはその出で来き事ごとから大たい切せつなことを学まなびました。確たしかに初しょ期きの聖せい書しょ研けん究きゅう者しゃたちは真しん理りを十じゅう分ぶんには理り解かいできていませんでしたが，私わたしは敬けい意いを抱いだくべきでした。当とう時じのイタリアの兄きょう弟だいたちはそれに加くわえ，母ぼ語ごで入にゅう手しゅできる出しゅっ版ぱん物ぶつが少すくなかったため，新あたらしい理り解かいに付ついていくのに時じ間かんがかかりました。それでも，一いっ生しょう懸けん命めい奉ほう仕ししていたそれらの兄きょう弟だい姉し妹まいをエホバは愛あいしていました。私わたしもそうすべきでした。

 アルビナと私わたしは年としが離はなれていましたが，一いっ緒しょに話はなすのは楽たのしかったです。大たい変へんな状じょう況きょうでも熱あつい心こころでエホバに仕つかえていたこれらの姉し妹まいたちは，私わたしにとって良よい手て本ほんでした。姉し妹まいたちと過すごせて本ほん当とうに良よかったです。

ベテル奉ほう仕しという贈おくり物もの

 1955年ねんの夏なつ，私わたしは「勝しょう利りの王おう国こく」大たい会かいに出しゅっ席せきするためにローマに行いきました。その時とき，さまざまな国くにからの出しゅっ席せき者しゃと一いっ緒しょにベテルを見けん学がくしました。私わたしは「ここで奉ほう仕しできたらいいのに！」と思おもいました。

 1955年ねん12月がつ18日にち，私わたしはバプテスマを受うけました。まだ学がく生せいでしたが，全ぜん時じ間かん奉ほう仕しをすることを決けつ意いしていました。1956年ねん，ジェノバで開ひらかれた大たい会かいで，ベテルで奉ほう仕しする人ひとが必ひつ要ようとされているという発はっ表ぴょうを聞ききました。でも支し部ぶの代だい表ひょう者しゃによると，姉し妹まいは必ひつ要ようとされていないということでした。

 その後ご，私わたしは巡じゅん回かい監かん督とくのピエロ･ガッティ兄きょう弟だい aに自じ分ぶんの目もく標ひょうについて話はなしました。すると，伝でん道どうに熱ねっ心しんだった兄きょう弟だいは私わたしに「姉し妹まいを特とく別べつ開かい拓たく奉ほう仕しに推すい薦せんしたいと思おもいます」と言いいました。

 少すこしして支し部ぶから手て紙がみが届とどきました。開かい拓たく者しゃの任にん命めいの手て紙がみだと思おもったのですが，違ちがいました。なんと，ベテル奉ほう仕しに申もうし込こむようにという内ない容ようだったのです！

 1958年ねん1月がつ，私わたしはベテルに入はいりました。その頃ころ，ベテル家か族ぞくは10から12人にんほどしかいませんでした。私わたしは支し部ぶにいた2人ふたりの翻ほん訳やく者しゃをサポートすることになりました。仕し事ごとはたくさんありましたが，私わたしには翻ほん訳やくの経けい験けんがありませんでした。でもエホバが助たすけてくださったおかげで，その奉ほう仕しが大だい好すきになりました。

 ところが2年ねんもしないうちに翻ほん訳やくの仕し事ごとが調ちょう整せいされ，私わたしはベテルを出でて開かい拓たく者しゃとして奉ほう仕しすることになりました。その頃ころにはベテルを自じ分ぶんの家いえのように感かんじていたので，とてもショックでした。でも，やがて新あらたな割わり当あてもエホバからの贈おくり物ものだと思おもえるようになりました。

宣せん教きょうに熱ねっ心しんな友ともという贈おくり物もの

 1959年ねん9月がつ1日ついたち，私わたしはクレモナで特とく別べつ開かい拓たく奉ほう仕しを始はじめました。一いっ緒しょに奉ほう仕ししたのは，ドリス･マイヤーというデンマークから来きた姉し妹まいです。姉し妹まいは私わたしより少すこし年とし上うえなだけでしたが，すでに開かい拓たく者しゃとして経けい験けんを積つんでいました。私わたしは姉し妹まいのことを尊そん敬けいしていました。ドリスは，積せっ極きょく的てきで物ものおじしない心しんの強つよい姉し妹まいでした。私わたしたちにはそういう強つよさが必ひつ要ようでした。クレモナにいたエホバの証しょう人にんは私わたしたちだけだったからです。

 ドリスは私わたしより先さきにクレモナに到とう着ちゃくしていて，アパートの一いっ室しつを借かりて集しゅう会かいができるように準じゅん備びをしていました。地じ元もとのカトリック教きょう会かいの司し祭さいは，私わたしたちのしていることにすぐ気き付づいて腹はらを立たて，教きょう会かいの礼れい拝はいで私わたしたちを激はげしく非ひ難なんしました。

 ある日ひ，わたしたちは警けい察さつ署しょに呼よび出だされました。勾こう留りゅうはされませんでしたが，外がい国こく人じんであるドリスはクレモナから退たい去きょするようはっきり言いわれました。その後ごドリスはデンマークに帰き国こくすることになりました。姉し妹まいはそこでエホバへの奉ほう仕しを熱ねっ心しんに続つづけました。

 その頃ころ，ブルニルデ･マルキという独どく身しんの姉し妹まいがクレモナに割わり当あてられ，私わたしたちは一いっ緒しょに奉ほう仕しすることになりました。姉し妹まいは穏おだやかで朗ほがらかな人ひとで，宣せん教きょう奉ほう仕しを愛あいしていました。私わたしたちはたくさんの人ひとと聖せい書しょレッスンをし，中なかには良よい進しん歩ぽを遂とげた人ひとたちもいます。

 クレモナでの伝でん道どう活かつ動どうの小ちいさな始はじまりに関かかわれたことをエホバに感かん謝しゃしています。今いまではそこに5つも会かい衆しゅうがあります。

うれしいサプライズ

 クレモナに来きて2年ねんもしないうちに，支し部ぶから電でん話わがありました。1961年ねん7月がつに開ひらかれる「一いっ致ちした崇すう拝はい者しゃ」という6日か間かんの大たい会かいのために，たくさんの翻ほん訳やく作さ業ぎょうがあるということでした。それで私わたしは再ふたたびベテルで奉ほう仕しするよう招しょう待たいされました。もう跳とび上あがって喜よろこびました！ 1961年ねん2月がつ1日ついたち，私わたしはベテルに帰かえってきました。

 ベテルでは毎まい日にち長ちょう時じ間かん働はたらきました。でも，聖せい書しょを学まなぶのに役やく立だつものを準じゅん備びするために一いっ生しょう懸けん命めい働はたらくことができてうれしかったです。月つき日ひはあっという間まに流ながれ，大たい会かいの日ひがやって来きました。

 その大たい会かいでは「クリスチャン･ギリシャ語ご聖せい書しょ 新しん世せ界かい訳やく」がイタリア語ごに翻ほん訳やくされるという発はっ表ぴょうがありました。私わたしはそれを聞きいて，「これからたくさんの仕し事ごとがあるはずだ」と思おもいました。その予よ想そうは当あたりました。私わたしは引ひき続つづきベテルで奉ほう仕しすることになりました。それから60年ねん以い上じょうがたちましたが，今いまでもベテルで奉ほう仕ししています。

エホバがくれたたくさんの贈おくり物もの

 独どく身しんでいられるのもエホバからの贈おくり物ものです。だからといって，結けっ婚こんについて考かんがえたことが全まったくないというわけではありません。このまま独どく身しんでいることを不ふ安あんに思おもっていた時じ期きもあります。それでそのことについてエホバに祈いのりました。私わたしのことを誰だれよりもよく分わかってくれているエホバに，私わたしにとって何なにがベストかを教おしえてほしいとお願ねがいしました。

 そうしているうちに，マタイ 19章しょう11，12節せつやコリント第だい一いち 7章しょう8，38節せつといった聖せい句くがかつてなく心こころに響ひびくようになりました。私わたしはエホバに，はっきり分わからせてくれたこと，穏おだやかな気き持もちにさせてくれたことを感かん謝しゃしました。自じ分ぶんの決けっ定ていを後こう悔かいしたことは一いち度どもありません。独どく身しんであることを生いかして，エホバのためにベストを尽つくせていることを幸しあわせに思おもいます。

 これまで長なが年ねんにわたって，私わたしは翻ほん訳やくの仕し事ごとがいろいろと変へん化かしていく様よう子すを見みてきました。エホバの組そ織しきは「国くに々ぐにの乳ちちを飲の」むとある通とおり，新あたらしいテクノロジーを積せっ極きょく的てきに活かつ用ようしてきました。（イザヤ 60:16）それにより，世せ界かい中じゅうの兄きょう弟だいたちがより歩ほ調ちょうを合あわせられるようになりました。例たとえば，1985年ねんにはイタリア語ごの「ものみの塔とう」誌しが英えい語ごと同どう時じに発はっ行こうされるようになりました。今いまではjw.orgでさまざまな言げん語ごの記き事じやビデオを，ほとんどの場ば合あい英えい語ごと同どう時じに見みることができます。確たしかにエホバはご自じ分ぶんの民たみを一ひとつにし，みんながぴったりのタイミングで信しん仰こうを強つよめる食しょく物もつを受うけ取とれるようにしています。

 エホバは本ほん当とうにたくさんの贈おくり物ものをくれました。特とく別べつ開かい拓たく者しゃとして充じゅう実じつした奉ほう仕しを楽たのしめるようにしてくれましたし，ベテルで奉ほう仕ししたいという願ねがいもかなえてくれました。ベテルではいろんな年ねん齢れいや生おい立たちの兄きょう弟だい姉し妹まいと友とも達だちになれました。エホバからの贈おくり物ものはそれだけではありませんでした。特とくにうれしかったのは，母ははが68歳さいでバプテスマを受うけてエホバの証しょう人にんになったことです。その母ははや家か族ぞくが生いき返かえってきて，また会あえる時ときを心こころ待まちにしています。（ヨハネ 5:28，29）

 エホバは将しょう来らい「全すべてのものを新あたらしく」します。（啓けい示じ 21:5）その時とき，私わたしたちのためにどんなことをしてくれるのか楽たのしみです。エホバがこれからも私わたしたちに「良よい贈おくり物もの」と「完かん全ぜんな贈おくり物もの」をたくさんくださると確かく信しんしています。（ヤコブ 1:17）