私わたしは1941年ねんにフィンランドのビッラトで，ろう者しゃの家か庭ていに生うまれました。両りょう親しん，妹いもうとと弟おとうと，親しん戚せきの多おおくも耳みみが聞きこえません。家いえではいつも手しゅ話わで会かい話わしていました。

 私わたしは家いえから約やく240キロ離はなれた寄き宿しゅく学がっ校こうに行いっていましたが，そこでは手しゅ話わが禁きん止しされていました。当とう時じ，フィンランドのろう学がっ校こうでは口こう話わ法ほうが採さい用ようされていて，生せい徒とたちは発はっ声せいの仕し方かたや相あい手ての口くちの動うごきの読よみ方かたを学まなばなければなりませんでした。手しゅ話わを使つかっているところが先せん生せいに見みつかると，定じょう規ぎや指し示じ棒ぼうで強つよくたたかれました。指ゆびが何なん日にちも腫はれることもありました。

 高こう校こうを卒そつ業ぎょうした後あと，私わたしは農のう業ぎょう大だい学がくに行いきました。両りょう親しんが農のう場じょうを持もっていたので，農のう業ぎょうを学まなぶ必ひつ要ようがあったのです。ある時とき，家いえに帰かえると，「ものみの塔とう」と「目めざめよ！」という雑ざっ誌しがテーブルの上うえに置おいてありました。父ちちによると，その雑ざっ誌しには聖せい書しょから学まなべるいいことがいろいろ書かかれていて，父ちちと母ははは聴ちょう者しゃの夫ふう婦ふから聖せい書しょを学まなんでいるとのことでした。その夫ふう婦ふとは筆ひつ談だんでコミュニケーションを取とっていました。

 父ちちは，将しょう来らい神かみの王おう国こくによって地ち球きゅうが美うつくしいパラダイスになり，死しんだ人ひとたちが生いき返かえると言いいました。でも私わたしは，人ひとは死しんだら天てん国ごくに行いくと教おしえられていました。それで，父ちちは何なにか勘かん違ちがいしているに違ちがいないと思おもいました。手しゅ話わで学まなべてはいなかったからです。

 またエホバの証しょう人にんの夫ふう婦ふがやって来きた時とき，私わたしは父ちちから聞きいたことについて尋たずねてみました。すると，「お父とうさんの言いう通とおりですよ」と言いわれました。それから2人ふたりは，ヨハネ 5章しょう28，29節せつにある，復ふっ活かつについてのイエスの言こと葉ばを見みせてくれました。そして，神かみが世せ界かい中じゅうから悪あくをなくし，みんなが完かん全ぜんに健けん康こうになっていつまでも平へい和わに暮くらせるようになる，と教おしえてくれました。（詩し編へん 37:10，11。ダニエル 2:44。啓けい示じ 21:1-4）

 私わたしはもっと知しりたかったので，アンテロという聴ちょう者しゃのエホバの証しょう人にんに聖せい書しょを教おしえてもらうことにしました。アンテロは手しゅ話わができなかったので，私わたしは聖せい書しょレッスン用ようのテキストにある質しつ問もんの答こたえを紙かみに書かきました。アンテロはそれを読よんで，さらに質しつ問もんを書かいたりコメントを書かいたりしてくれました。そういうふうにして，週しゅうに2時じ間かん，辛しん抱ぼう強づよく教おしえてくれました。

 1960年ねんに出しゅっ席せきしたエホバの証しょう人にんの地ち域いき大たい会かいでは，手しゅ話わへの通つう訳やくがありました。金きん曜よう日びの午ご後ごに，翌よく日じつバプテスマが行おこなわれるという発はっ表ぴょうがありました。それで，土ど曜よう日びに私わたしは水みず着ぎとタオルを持もっていき，バプテスマを受うけました。 a 程ほどなくして，両りょう親しんと妹いもうとと弟おとうともバプテスマを受うけました。

 私わたしは聖せい書しょから学まなんだことをほかのろう者しゃたちにも伝つたえたいと思おもいました。ろう者しゃの心こころに響ひびくようにするには，手しゅ話わで伝つたえるのが一いち番ばんです。私わたしは自じ分ぶんの町まちのろう者しゃたちに熱ねっ心しんに伝でん道どうし始はじめました。

 間まもなく私わたしは，大おおきな工こう業ぎょう都と市しであるタンペレに引ひっ越こしました。ろう者しゃを探さがすために家いえを一いっ軒けん一いっ軒けん訪たずねて，耳みみの聞きこえない人ひとを知しらないかどうか聞ききました。そのようにして幾いくつもの聖せい書しょレッスンを始はじめることができました。わずか数すう年ねんで，タンペレの10人にん以い上じょうのろう者しゃが伝でん道どう者しゃになりました。

 1965年ねんにマイレという素す敵てきな姉し妹まいと出で会あい，翌よく年ねん結けっ婚こんしました。マイレはすぐに手しゅ話わを覚おぼえ，一いっ緒しょにエホバに仕つかえた50年ねんの間あいだ一いっ生しょう懸けん命めい奉ほう仕しし，私わたしを本ほん当とうによく支ささえてくれました。

 結けっ婚こんして2年ねん後ごに，息子むすこのマルコが生うまれました。マルコは耳みみが聞きこえるので母ぼ語ごはフィンランド語ごですが，フィンランド手しゅ話わも使つかえるようになりました。マルコは13歳さいの時ときにバプテスマを受うけました。

 やがてタンペレの手しゅ話わグループはかなり人にん数ずうが増ふえました。それで1974年ねんに，ろう者しゃのエホバの証しょう人にんがいないトゥルクという都と市しに引ひっ越こしました。そこでも家いえを一いっ軒けん一いっ軒けん訪たずねてろう者しゃを探さがしました。トゥルクにいた間あいだに，私わたしと聖せい書しょを学まなんだ12人にんのろう者しゃがバプテスマを受うけました。

 1987年ねんに，マルコはベテルで奉ほう仕しするよう招まねかれました。トゥルクの手しゅ話わグループも人ひと手でが増ふえたので，私わたしたちはまた引ひっ越こしの計けい画かくを立たて始はじめました。

 その頃ころ，東ひがしヨーロッパでも比ひ較かく的てき自じ由ゆうに伝でん道どうできるようになりました。それで，1992年ねん1月がつ，私わたしはもう1人ひとりのろう者しゃの兄きょう弟だいとエストニアのタリンに行いってみました。

 私わたしたちはろう者しゃのお兄にいさんがいる姉し妹まいと連れん絡らくを取とることができました。そのお兄にいさんは王おう国こくの良よい知しらせに関かん心しんを持もちませんでしたが，私わたしたちがエストニアの大おお勢ぜいのろう者しゃに会あえるよう親しん切せつに助たすけてくれました。滞たい在ざい中ちゅうの最さい後ごの晩ばんには，タリンにあるエストニアろう協きょう会かいの集あつまりに連つれていってくれました。私わたしたちは早はやめに行いって，エストニア語ごとロシア語ごの雑ざっ誌しや本ほんをテーブルに並ならべました。約やく100冊さつの本ほんと200冊さつの雑ざっ誌しを配はい布ふすることができ，70人にんほどのろう者しゃの住じゅう所しょを教おしえてもらいました。こうして，エストニアで手しゅ話わで伝でん道どうするための準じゅん備びが整ととのいました。

 それから程ほどなくして，私わたしとマイレはエストニアに定てい期き的てきに伝でん道どう旅りょ行こうに行いくようになりました。仕し事ごとを減へらし，正せい規き開かい拓たく者しゃになりました。1995年ねんには，ヘルシンキにもっと近ちかい所ところに引ひっ越こしました。フェリーでタリンに行いきやすくするためです。エストニアでの宣せん教きょうは期き待たい以い上じょうに素す晴ばらしいものでした。

 多おおくのろう者しゃが聖せい書しょを学まなびたがったので，聖せい書しょレッスンの予よ定ていはいつもいっぱいでした。私わたしたちが教おしえた人ひとのうち16人にんがバプテスマを受うけました。その中なかには，耳みみも目めも不ふ自じ由ゆうな実じつの姉し妹まいもいました。その2人ふたりとは触しょく手しゅ話わで聖せい書しょレッスンをしました。相あい手ての手てに触ふれながら手しゅ話わをしたのです。

 ろう者しゃに聖せい書しょを教おしえるのは簡かん単たんではありませんでした。当とう時じ，私わたしたちがいた国くに々ぐにでは手しゅ話わのビデオなどはなかったので，私わたしは本ほんや雑ざっ誌しに載のっていた挿さし絵えをスクラップブックに集あつめて使つかっていました。

 フィンランド支し部ぶから，ラトビアとリトアニアを訪たずねて，それらの国くにで手しゅ話わでの伝でん道どうをどのように進すすめられるかを調ちょう査さしてほしい，と言いわれました。それで，それらの国くにに何なん度どか足あしを運はこび，地じ元もとの兄きょう弟だい姉し妹まいがろう者しゃを探さがすのを手て伝つだいました。大たい抵ていどの国くにも独どく自じの手しゅ話わを使つかっているので，私わたしはエストニア，ラトビア，リトアニアの手しゅ話わを覚おぼえました。バルト3国ごくに住すんでいるロシア人じんのろう者しゃのために，ロシア手しゅ話わも幾いくらか学まなびました。

 エストニアや他たの2国こくを行いき来きする生せい活かつを8年ねん間かん続つづけた後あと，マイレがパーキンソン病びょうと診しん断だんされたので，残ざん念ねんながらその奉ほう仕しを続つづけられなくなりました。

 1997年ねんに，フィンランド支し部ぶで手しゅ話わ翻ほん訳やくグループが立たち上あげられました。私わたしとマイレは近ちかくに住すんでいたので，手しゅ話わのビデオなどを作つくるのを手て伝つだうことができ，息子むすこのマルコと一いっ緒しょに働はたらけました。後のちにマルコは妻つまのキルシと一いっ緒しょに，他たの手しゅ話わ翻ほん訳やくグループをトレーニングするために幾いくつかの国くにに行いきました。私わたしは今いまでも時とき々どき手しゅ話わへの翻ほん訳やくを手て伝つだっています。

 支し部ぶは，聴ちょう者しゃの伝でん道どう者しゃが手しゅ話わを学まなぶための訓くん練れんコースも開ひらいてきました。それにより多おおくの人ひとが手しゅ話わの会かい衆しゅうやグループに加くわわり，手しゅ話わの伝でん道どうや集しゅう会かいに参さん加かしたり，会かい衆しゅうで責せき任にんを担になったりできるようになりました。

 2004年ねん，最さい初しょのフィンランド手しゅ話わ会かい衆しゅうがヘルシンキに設せつ立りつされ，私わたしとマイレもそれに関かかわることができました。3年ねんでその会かい衆しゅうは人にん数ずうが増ふえ，たくさんの開かい拓たく者しゃがいるとても熱ねっ心しんな会かい衆しゅうになりました。

 私わたしたちはまた必ひつ要ようの大おおきな所ところに移い動どうする計けい画かくを立たて始はじめました。2008年ねんにタンペレの近ちかくに引ひっ越こし，34年ねんぶりにそこの手しゅ話わグループに戻もどりました。1年ねん後ご，その手しゅ話わグループはフィンランドで2つ目めの手しゅ話わ会かい衆しゅうになりました。

 マイレの健けん康こう状じょう態たいは少すこしずつ悪わるくなっていきました。一いっ生しょう懸けん命めいに看かん病びょうしましたが，2016年ねんにマイレは亡なくなりました。マイレがいなくなってとても寂さびしいですが，もう病びょう気きになることがない新あたらしい世せ界かいでまた会あえる時ときを楽たのしみにしています。（イザヤ 33:24。啓けい示じ 21:4）

 これまで60年ねんにわたって，私わたしはろう者しゃに良よい知しらせを伝つたえてきました。それは私わたしのライフワークであり，ろう者しゃを助たすけたいという思おもいは今いまでも変かわっていません。