妻つまのケイが長ちょう女じょのローレンを生うんだ時とき，私わたしはどうすれば良よい父ちち親おやになれるのか分わかっていませんでした。次つぎに長ちょう男なんのマイケルが生うまれた時ときにも，まだ分わかっていませんでした。私わたしの親おやはいつもけんかばかりしていて，最さい後ごには離り婚こんしてしまいました。私わたしは良よい父ちち親おやになりたいと思おもっていましたが，どうしたらいいか分わかりませんでした。

 さらに悪わるいことに，10代だいの頃ころ，アルコールやドラッグに溺おぼれるようになっていました。大人おとなになっても，生せい活かつは荒あれていました。ギャンブルにもはまり，悪わるいことをたくさんしました。それで，ケイは2人ふたりの子こ供どもを連つれて出でていってしまいました。これには参まいりました。

 ケイに，どうしたら戻もどってきてくれるか尋たずねました。ケイは当とう時じエホバの証しょう人にんのグロリアから聖せい書しょを教おしえてもらっていたので，「聖せい書しょを勉べん強きょうしてください」と言いいました。その時ときはあまり深ふかく考かんがえませんでしたが，ケイに戻もどってきてもらいたい一いっ心しんで，グロリアと夫おっとのビルに会あうことにしました。

 家いえに来きてくれたビルとグロリアがとても仲なかの良よい夫ふう婦ふだったので，驚おどろきました。子こ供どもたちは私わたしと同どう世せ代だいで，充じゅう実じつした生せい活かつを送おくっているとのことでした。私わたしは家か族ぞくの幸しあわせに聖せい書しょが役やく立だつのかもしれないと考かんがえるようになりました。

 ビルとグロリアは私わたしが抱かかえていた問もん題だいについて話はなし，聖せい書しょのガラテア 6章しょう7節せつを見みせてくれました。そこにはこうありました。「人ひとは自じ分ぶんがまいているものを必かならず刈かり取とることになります」。私わたしは「この言こと葉ばの通とおりにしていたら，多おおくの問もん題だいを抱かかえずに済すんだのに」と思おもいました。

 聖せい書しょの言こと葉ばを実じっ践せんしていくうちに，私わたしの生せい活かつはどんどん良よくなっていきました。夫ふう婦ふでたばこをやめられましたし，私わたしはほかの悪わるい習しゅう慣かんもやめることができました。1985年ねんに3人にん目めの子こ供どもデービッドが生うまれました。私わたしたちはこの子このことを，愛あい情じょうを込こめてデイビーと呼よんでいました。私わたしはようやく，良よい父ちち親おやになれると思おもいました。

 私わたしとケイはエホバを愛あいするよう子こ供どもたちを教おしえることで，自じ分ぶんたちとエホバの絆きずなも強つよまることが分わかりました。「偉い大だいな教おしえ手てに聞きき従したがう」といった出しゅっ版ぱん物ぶつからもたくさんのことを学まなびました。また会かい衆しゅう内ないには，私わたしたちがお手て本ほんにしたい家か族ぞくもいました。

 やがて子こ供どもたち全ぜん員いんが開かい拓たく奉ほう仕しを始はじめました。2004年ねんの初はじめには，ローレンはスペイン語ご会かい衆しゅうで奉ほう仕ししていました。また，マイケルは結けっ婚こんのためにベテルを出でて，妻つまのダイアナとグアムで奉ほう仕しするための準じゅん備びをしていました。19歳さいのデイビーはドミニカ共きょう和わ国こくで奉ほう仕しし始はじめたところでした。

 私わたしたちは親おやとして，子こ供どもたちが選えらんだ生いき方かたをとても誇ほこらしく思おもっていました。ヨハネ第だい三さん 4節せつには，「私わたしの子こ供どもたちが真しん理りに従したがって歩あゆみ続つづけているのを聞きくことほど，うれしいことはありません」とあります。まさにこの言こと葉ばの通とおりだと感かんじていました。そんな生せい活かつが1本ぽんの電でん話わで変かわってしまうとは，夢ゆめにも思おもいませんでした。

 2004年ねん4月がつ24日か，私わたしとケイは2組くみの夫ふう婦ふと一いっ緒しょにディナーに出で掛かけました。レストランは100キロ以い上じょう離はなれた所ところにあったので，みんなでうちの車くるまに乗のって行いきました。夕ゆう食しょくを終おえた後あと，デザートを食たべにカフェに立たち寄より，そこでほかのみんなを降おろしてから，車くるまを止とめに行いきました。その時とき，携けい帯たい電でん話わが鳴なりました。電でん話わをかけてきたのは友ゆう人じんで，声こえが震ふるえていました。

 「大たい変へんなことが起おきた。デイビーが事じ故こに遭あったんだ」と友ゆう人じんは言いいました。

 「それで，デイビーは？」そう聞ききながら，嫌いやな予よ感かんがしました。

 しばらく沈ちん黙もくが続つづいた後あとに，友ゆう人じんは重おもい口くちを開ひらきました。「亡なくなったそうだ」。

 電でん話わを切きると，助たすけを求もとめてエホバに祈いのりました。それからカフェに入はいっていって，ちょっと気き分ぶんが優すぐれないのでこのまま家いえに帰かえりたい，とみんなに言いいました。ケイにはこのことを2人ふたりきりになってから話はなそうと思おもっていました。

 家いえに帰かえるまでの1時じ間かん半はんの道みちのりは，本ほん当とうにつらく感かんじました。ケイは，デイビーが死しんだことをまだ知しらなかったので，「もうすぐ一いち時じ帰き国こくしてくるのよ」とうれしそうに話はなしていました。その間かんにも，私わたしの携けい帯たい電でん話わには慰なぐさめのメッセージがたくさん入はいってきました。

 ほかの夫ふう婦ふを家いえまで送おくってから，私わたしたちも帰き宅たくしました。ケイは私わたしを一ひと目め見みて何なにかがおかしいことに気き付づき，「どうしたの？」と聞きいてきました。これから話はなすことを聞きいて，ケイがどれほどつらい思おもいをするかは想そう像ぞうできました。私わたしも2時じ間かんほど前まえに同おなじ経けい験けんをしたからです。

 私わたしたち夫ふう婦ふはこれまでもいろいろ大たい変へんなことを経けい験けんしてきましたが，その度たびにエホバが助たすけてくださいました。（イザヤ 41:10，13）でも，今こん回かいの試し練れんはこれまで経けい験けんしてきたものとは全まったく違ちがいました。「エホバに一いっ生しょう懸けん命めい仕つかえてきたデイビーにどうしてこんなことが起おきたんだろう。どうしてエホバはデイビーを守まもってくれなかったんだろう」。こうした考かんがえが頭あたまから離はなれませんでした。

 ほかの子こ供どもたちも悲かなしみに打うちのめされました。ローレンは自じ分ぶんの子こ供どものようにデイビーをかわいがっていたので，デイビーの死しをなかなか受うけ入いれられませんでした。マイケルも大おおきなショックを受うけました。マイケルは家いえを出でてから5年ねんたっていましたが，弟おとうとのデイビーが立りっ派ぱに成せい長ちょうするのを見みてとても喜よろこんでいました。

 会かい衆しゅうはすぐに助たすけてくれました。ケイが息子むすこの死しを受うけ入いれられず，ショックを受うけているさなかにも，会かい衆しゅうの兄きょう弟だい姉し妹まいが家いえに来きて私わたしたちに寄より添そい，助たすけになってくれました。（格かく言げん 17:17）兄きょう弟だい姉し妹まいが示しめしてくれた愛あいは忘わすれられません。

 私わたしとケイは悲かなしみに立たち向むかうために，祈いのりや聖せい書しょ研けん究きゅう，集しゅう会かいへの出しゅっ席せきを欠かかしませんでした。だからといって，心こころの傷きずが消きえたわけではありません。でも，エホバとの絆きずなを保たもつために，こうした習しゅう慣かんを守まもることが大たい切せつだということは分わかっていました。（フィリピ 3:16）

 そして，マイケルとダイアナがうちの近ちかくに引ひっ越こしてきました。ローレンも英えい語ご会かい衆しゅうに戻もどってきました。そうやってその後ごの数すう年ねん間かん，家か族ぞくみんなで過すごしたことで，悲かなしみが少すこしずつ癒いえていきました。後のちにローレンと結けっ婚こんしたジャスティンも，家か族ぞくにとって大おおきな支ささえになってくれました。

 デイビーが死しんで間まもなく，悲かなしみと向むき合あうために私わたしたちがしたことがもう1つあります。そうするのはつらいことでしたが，家か族ぞくにとって大おおきな助たすけになりました。そのことはケイが話はなしてくれます。

 「夫おっとからデイビーが死しんだと聞きかされて，私わたしは深ふかい絶ぜつ望ぼうに陥おちいり，そこからなかなか抜ぬけ出だせませんでした。悲かなしみのあまり，日にち常じょうのこともままならなくなりました。いつも泣ないてばかりいました。正しょう直じきなところ，エホバや生いきている人ひとに対たいして怒いかりを感かんじることもありました。バランスの取とれた見み方かたができなくなっていたんです。

 私わたしはドミニカ共きょう和わ国こくに行いきたいと思おもいました。デイビーが死しぬ前まえの数すうカ月げつ間かんを過すごし，エホバに仕つかえていた場ば所しょを見みたかったんです。でも気き持もちの整せい理りがまだできていませんでしたし，そんなに遠とおい所ところまで旅りょ行こうするのは無む理りだと思おもいました。

 ドミニカ共きょう和わ国こくにいるデイビーの友ゆう人じんたちもとても悲かなしんでいて，デイビーの家か族ぞくに会あいたがっている，と親したしい友とも達だちが教おしえてくれました。その友とも達だちのおかげで，飛ひ行こう機きで旅たびをする力ちからが湧わいてきました。

 ドミニカへの旅たびは私わたしたち家か族ぞくにとって大おおきな慰なぐさめになりました。デイビーがどれほど熱ねっ心しんにエホバに仕つかえていたかがよく分わかりました。デイビーがいた会かい衆しゅうの唯ゆい一いつの長ちょう老ろうは，会かい衆しゅうでのデイビーの働はたらきにいつも助たすけられていたことを話はなしてくれました。

 デイビーが住すんでいた町まちを歩あるいていると，いろんな人ひとたちがやって来きて，デイビーがした親しん切せつなことを口くち々ぐちに話はなしてくれました。デイビーはもともと優やさしい子こでしたが，みんなの話はなしを聞きいて，デイビーがイエスのようになろうと一いっ生しょう懸けん命めいに努ど力りょくしていたことがよく分わかりました。

 デイビーが聖せい書しょを教おしえていた人ひとの1人ひとりにも会あいました。その人ひとは，小ちいさな家いえで寝ねたきりの生せい活かつを送おくっている貧まずしい人ひとでした。でも，デイビーはその人ひとに心こころからの敬けい意いを払はらっていたと会かい衆しゅうの人ひとたちが教おしえてくれました。それを聞きいて私わたしはとても誇ほこらしく思おもいました。

 今こん回かいの旅たびは，私わたしにとってこれまでで一いち番ばん大たい変へんな旅たびでした。でも，デイビーをよく知しる人ひとたちと共ともに悲かなしみ，慰なぐさめ合あったことは，私わたしたちにとって大おおきな助たすけになりました。心こころの傷きずが少すこし癒いえたように感かんじました」。

 「目めざめよ！」2005年ねん1月がつ8日か号ごうには，デイビーのドミニカ共きょう和わ国こくでの奉ほう仕しと死しについての記き事じが載のせられました。この記き事じは，私わたしたちが思おもっていた以い上じょうに大おおきな反はん響きょうがありました。2019年ねん5月がつには，ニックという兄きょう弟だいが次つぎのように知しらせてくれました。

 「2004年ねんの終おわりごろ，私わたしは大だい学がく生せいで，奉ほう仕しの目もく標ひょうを何なにも持もっていませんでした。全ぜん然ぜん楽たのしくありませんでした。それで，この若わかい時ときにもっと充じゅう実じつした生いき方かたができるよう助たすけてください，とエホバに祈いのりました。そのすぐ後あと，『目めざめよ！』でデイビーの経けい験けんを読よみました。そこに私わたしの祈いのりに対たいする答こたえがあったのです。

 私わたしは大だい学がくをやめて開かい拓たく奉ほう仕しを始はじめました。また，スペイン語ごを学まなんで外がい国こくに移い動どうすることを目もく標ひょうにしました。やがてニカラグアで奉ほう仕しするようになり，妻つまと一いっ緒しょに王おう国こく福ふく音いん伝でん道どう者しゃのための学がっ校こうにも出しゅっ席せきできました。どうして開かい拓たく奉ほう仕しを始はじめたのかと尋たずねる人ひとには，デイビーの経けい験けんを紹しょう介かいしています」。

 アビーという姉し妹まいに会あった時ときにも驚おどろくようなことがありました。私わたしたちは2019年ねんにアルゼンチンのブエノスアイレスで開ひらかれた国こく際さい大たい会かいに出しゅっ席せきしました。その時ときアビーは，私わたしたちが泊とまったホテルの係かかりをしていました。アビーの親しん切せつで優やさしい応おう対たいを受うけて，私わたしとケイはデイビーのことを思おもい出だしました。

 ホテルの部へ屋やに戻もどってから，デイビーについて書かかれた「目めざめよ！」の記き事じのリンクをアビーに送おくりました。すると，すぐに返へん事じがありました。ぜひ話はなしがしたいとのことだったので，ロビーで会あうことにしました。アビーは目めに涙なみだを浮うかべながら，こう言いいました。「私わたしはデイビーの経けい験けんを読よんだことがきっかけで，2011年ねん9月がつに開かい拓たく奉ほう仕しを始はじめ，それから，あまり伝でん道どうされていない区く域いきで奉ほう仕しするようになりました。何なにか問もん題だいにぶつかったときには，いつもこの記き事じを読よみ返かえすようにしているんです」。なんとアビーは，その雑ざっ誌しを持もってきていたのです！

 こうした経けい験けんから，私わたしたちには世せ界かい的てきな家か族ぞくがいることがよく分わかります。この世よの中なかに，エホバの証しょう人にんほど一ひとつに結むすばれている人ひとたちはいません。

 私わたしとケイは，デイビーがほかの人ひとたちにこんなにも良よい影えい響きょうを与あたえているのを知しって，慰なぐさめられました。デイビーのように，エホバに仕つかえるために頑がん張ばっている若わかい人ひとたちがたくさんいます。本ほん人にんたちは気き付づいていないかもしれませんが，若わかい人ひとたちのそういう熱ねつ意いや立りっ派ぱな手て本ほんは，周まわりに良よい影えい響きょうを与あたえています。エホバにベストを尽つくして仕つかえるよう後あと押おししています。

 ルカ 20章しょう37節せつで，イエスはエホバの言こと葉ばを引いん用ようしています。その中なかでエホバは，ご自じ分ぶんのことを「アブラハムの神かみ，イサクの神かみ，ヤコブの神かみ」と呼よんでいます。これらの人ひとたちが亡なくなっているのに，彼かれらの神かみであると言いっています。イエスが38節せつで述のべているように，「彼かれらは皆みな，神かみにとっては生いきている」からです。

 これは，エホバから見みれば，亡なくなった忠ちゅう実じつな人ひとたちが皆みな生いきているも同どう然ぜんだということです。ですから，エホバがそれらの人ひとたちを復ふっ活かつさせることを確かく信しんできます。（ヨブ 14:15。ヨハネ 5:28，29）エホバは，死しの眠ねむりに就ついたほかの忠ちゅう実じつな人ひとたちと同どう様よう，デイビーのことも復ふっ活かつさせたいと思おもっているはずです。

 私わたし自じ身しんがデイビーに会あいたいのはもちろんですが，それ以い上じょうにケイがデイビーと再さい会かいするのを見みたいと思おもっています。妻つまは本ほん当とうにつらい思おもいをしてきたからです。ルカ 7章しょう15節せつにはこう書かかれています。「死し人にんは体からだを起おこして話はなし始はじめ，イエスは息子むすこを母はは親おやに渡わたした」。これは私わたしにとって特とく別べつな聖せい句くになりました。

 2005年ねん9月がつに，私わたしもケイと同おなじように開かい拓たく奉ほう仕しを始はじめました。妻つまや子こ供どもたち夫ふう婦ふと一いっ緒しょに開かい拓たく奉ほう仕しができて，とてもうれしく思おもっています。家か族ぞくみんなで支ささえ合あい，新あたらしい世せ界かいで愛あいするデイビーと再さい会かいするのを心こころから楽たのしみにしています。