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君の君たる者に向かってだれが立ち得ようか

君の君たる者に向かってだれが立ち得ようか

第10章

君の君たる者に向かってだれが立ち得ようか

1,2 ベルシャザルの治世の第三年にダニエルの見た幻が,わたしたちにとって重要なのはなぜですか。

エルサレムのエホバの神殿が滅ぼされてから57年が過ぎました。聖書預言における3番目の世界強国つまりバビロニア帝国は,ベルシャザルとその父ナボニドスが共同で支配しています。 * 神の預言者ダニエルはバビロンに流刑にされています。それでエホバは,「王ベルシャザルの王政の第三年」,ダニエルに幻を送り,真の崇拝の回復に関する細かな点を幾つか啓示されます。―ダニエル 8:1

2 ダニエルが見た預言的な幻は,ダニエルに並々ならぬ影響を及ぼしましたが,「終わりの時」に生活しているわたしたちにとっても,大きな関心事です。み使いガブリエルはダニエルにこう告げています。「さあ,わたしは,糾弾の最終部分に起きる事柄についてあなたに知らせよう。それは終わりの定められた時のためだからである」。(ダニエル 8:16,17,19,27)では,ダニエルが見た事柄と,それが今日のわたしたちにとってどんな意味があるのかを,強い関心を抱きつつ考えてゆきましょう。

二本の角のある雄羊

3,4 ダニエルは水路の前にどんな動物が立っているのを見ましたか。それは何を象徴していますか。

3 ダニエルはこう書いています。「わたしは幻の中で見るようになった。わたしが見ていると,自分はシュシャンの城にいた。それはエラムの管轄地域にある。そうしてわたしが幻の中で見ると,自分はウライの水路のそばにいた」。(ダニエル 8:2)ダニエルが,バビロンの350㌔ほど東にあるエラムの首都シュシャン(スサ)に実際にいたのか,それとも単に幻の中でそこにいたのかは述べられていません。

4 ダニエルは続けてこう書いています。「わたしが目を上げて見ると,見よ,一頭の雄羊が水路の前に立っているのが見えた。それには二本の角があった」。(ダニエル 8:3前半)ダニエルにとって,雄羊の実体はなぞのままではありません。後にみ使いガブリエルは,「あなたが見た二本の角のある雄羊はメディアとペルシャの王を表わしている」と述べています。(ダニエル 8:20)メディア人は高原からアッシリアの東に移動してきましたが,ペルシャ人は当初,ペルシャ湾の北方の地域で主として遊牧生活を営んでいました。ところがメディア-ペルシャ帝国の拡大に伴い,民はぜいたくな生活を目立って好むようになります。

5 「後から伸びた」角はどのように,他方より長くなりましたか。

5 「その二本の角は長かったが,一方は他方より長く,長いほうは後から伸びたものであった」とダニエルは伝えています。(ダニエル 8:3後半)あとから伸びてきた長いほうの角はペルシャ人のことであり,もう一方の角はメディア人を表わしています。最初はメディア人のほうが優勢でしたが,西暦前550年にペルシャの支配者キュロスがメディアの王アステュアゲスと戦って,楽勝しました。キュロスは二民族の慣習や法律を一つにまとめ,両民族の王国を統合し,それぞれの領地を広げました。それ以来,この帝国は二重性を帯びるようになります。

雄羊は大いに高ぶる

6,7 「どんな野獣も」雄羊の「前に立ちつづけることはでき(なかった)」とは,どのような意味ですか。

6 ダニエルは雄羊についての説明を続け,こう述べます。「わたしは,その雄羊が西に,北に,南に突き進むのを見た。どんな野獣もその前に立ちつづけることはできず,その手のもとから救出できる者もいなかった。そして,それは自分の意のままに事を行ない,大いに高ぶった」― ダニエル 8:4

7 これに先立ってダニエルに与えられた幻の中で,バビロンは,海から上ってきた,鷲の翼を持つライオンのような野獣によって表わされていました。(ダニエル 7:4,17)その象徴的な獣は,この新しい幻の「雄羊」の前に立つことができませんでした。バビロンは西暦前539年キュロス大王によって倒されました。それからほとんど50年間は,「どんな野獣も」,つまりどんな政治上の統治機関も,聖書預言における4番目の世界強国,つまりメディア-ペルシャ帝国に敵して立ち上がることはできませんでした。

8,9 (イ)「雄羊」はどのように「西に,北に,南に突き進(み)」ましたか。(ロ)エステル記はペルシャの王ダリウス1世の後継者について,何と述べていますか。

8 「日の昇る方」つまり東から来る世界強国メディア-ペルシャは,ほしいままに事を行ない,「西に,北に,南に突き進(み)」ました。(イザヤ 46:11)キュロス大王の後を継いだ王カンビュセス2世はエジプトを征服します。その後継者となったのはペルシャの王ダリウス1世であり,西暦前513年にボスポラス海峡を西へ渡り,ビザンティウム(現在のイスタンブール)を主都とする,トラキアのヨーロッパ領地に侵入します。西暦前508年にはトラキアを従え,西暦前496年にはマケドニアを征服します。このように,メディア-ペルシャという「雄羊」は,ダリウスの時代までに主要な三つの方角の土地,つまり北のバビロニアとアッシリア,西の小アジア,南のエジプトを掌握していました。

9 メディア-ペルシャ帝国の広大さを証明する点として,聖書はダリウスの後継者クセルクセス1世について,「インドからエチオピアまで,百二十七管轄地域を王として支配していたアハシュエロス」と書いています。(エステル 1:1)とはいえ,この大帝国はもう一つの国に道を譲ることになっており,この点に関してダニエルの幻は,神の預言の言葉に対する信仰を強める,幾つかの興味深い詳細な事柄を明らかにしています。

雄やぎが雄羊を打ち倒す

10 ダニエルの幻の中で,どんな動物が「雄羊」を打ち倒しましたか。

10 ダニエルが,次に見たものに驚いている様子を思い描いてみてください。こう記述されています。「わたしがずっと思い巡らしていると,見よ,一頭の雄のやぎが全地の表を日の沈む方からやって来たが,それは地に触れていなかった。そして,その雄のやぎには,目の間に一本の際立った角があった。そしてそれは,二本の角を持つ雄羊,水路の前に立っているのをわたしが見たさきの雄羊のところまでやって来た。それは猛烈な怒りを抱いて雄羊のところに走って来た。そしてわたしは,それが雄羊にすぐ触れるところまで来るのを見た。それは雄羊に対して激しい敵意を示し,これを打ち倒して,その二本の角を折ったが,雄羊にはそれに立ち向かう力がなかった。こうしてそれは雄羊を地に投げ倒し,それを踏みつけたが,雄羊にはこれをその手から救出する者がいなかった」。(ダニエル 8:5-7)このすべては何を意味しているのでしょうか。

11 (イ)み使いガブリエルは,「毛深い雄やぎ」と,その「大いなる角」について,どのように説明しましたか。(ロ)際立った角はだれを表わしていましたか。

11 ダニエルもわたしたちも,この幻の意味を推測する必要はありません。「毛深い雄やぎはギリシャの王を表わしている。その目の間にあった大いなる角,それはその第一の王である」と,み使いガブリエルはダニエルに知らせています。(ダニエル 8:21)西暦前336年,ペルシャ帝国の最後の王ダリウス3世(コドンマヌス)は王位に就きました。その同じ年に,アレクサンドロスはマケドニアの王となります。歴史の示すところによると,予告された第一の「ギリシャの王」となったのはアレクサンドロス大王でした。西暦前334年に「日の沈む方」つまり西から始まったアレクサンドロスの動きは迅速でした。まるで「地に触れていな(い)」かのように,幾つもの土地を征服し,「雄羊」を打ち倒したのです。こうしてギリシャは,ほぼ2世紀にわたって続いたメディア-ペルシャによる支配を終わらせ,聖書上重要な5番目の世界強国になりました。神の預言の何と目ざましい成就でしょう。

12 象徴的なやぎの「大いなる角」はどのように「折れ」ましたか。その場所に生えてきた四本の角とは何ですか。

12 しかし,アレクサンドロスの強国は短命に終わることになっていました。幻の啓示はさらに続きます。「そして,その雄のやぎは甚だしく高ぶった。しかし,それが強大になるや,その大いなる角は折れ,その代わりに際立った四つの角が生えて来て,天の四方の風に向かった」。(ダニエル 8:8)ガブリエルは預言に説明を加え,こう述べています。「それが折れて,その代わりについに四本の角が立ち上がったが,彼の国から四つの王国が立つことになる。しかし,彼ほどの力はない」。(ダニエル 8:22)予言にたがわず,アレクサンドロスは勝利の絶頂にあったわずか32歳の時に「折れて」亡くなります。そしてアレクサンドロスの大帝国も,やがては配下の4人の将軍の間で分割されることになります。

なぞめいた小さい角

13 四つの角の一つからどんなものが生じましたか。それはどのように行動しましたか。

13 幻の中の続く部分は2,200年余りの期間にわたるもので,その成就は現代にまで及んでいます。ダニエルはこう書いています。「そのうちの[四つの角の]一つから,別の角,小さい角が出て来た。それは非常に大きくなっていって,南に向かい,日の出の方に向かい,また飾りとなる所に向かった。そしてそれは天の軍に達するまでに大きくなっていき,その軍の幾らかと星の幾つかを地に落とし,これを踏みにじるのであった。そして,その軍の君に対してまでそれは大いに高ぶり,その方から常供のものが取り去られた。また,その方の聖なる所の定まった場所は打ち捨てられた。さらに,軍そのもの,そして常供のものも共に徐々に引き渡されていった。それは違犯のためであった。それは真理を地に投げつけてゆき,行動して成功を得た」― ダニエル 8:9-12

14 み使いガブリエルは象徴的な小さい角の活動について何と述べましたか。その角はどうなりますか。

14 ここに引用した言葉の意味を理解するには,神のみ使いに注意を払わなければなりません。み使いガブリエルは,アレクサンドロスの帝国から生じた四つの王国がそれぞれ権力を取ることを指摘した後,こう述べています。「彼らの王国の末期,すなわち違犯を行なう者たちが極みに進む時,顔つきが猛悪で,あいまいな言い回しをよく理解するひとりの王が立ち上がる。そして,その者の力は必ず強大になるが,それは自らの力によるのではない。また彼は驚くような仕方で滅びをもたらし,必ず成功を収めて,効果的に事を行なう。また彼は力ある者たちをまさに滅びに至らせ,聖なる者たちで成る民をも滅ぼす。そして,その洞察力によって欺き事を必ずその手中で成功させる。また,その心のうちで大いに高ぶり,心配なく過ごしている間に多くの者を滅びに至らせる。そして,君の君たる者に向かって立ち上がるが,人手によらずして砕かれることになる」― ダニエル 8:23-25

15 み使いは,幻に関して何を行なうようダニエルに告げましたか。

15 み使いはダニエルにこう告げます。「あなたは,この幻を秘しておくように。それはなお多くの日にわたるものだからである」。(ダニエル 8:26)幻のこの部分の成就は「多くの日」を経るまで生じないことになっており,ダニエルは「この幻を秘しておく」べきでした。その意味はダニエルにとって,なぞのままだったようです。しかし今の時点から見れば,これら「多くの日」はすでに過ぎ去っているに違いありません。ですから,『世界の歴史はこの預言的な幻の成就について,何を明らかにしているだろうか』という質問が生じます。

小さい角は力において強大になる

16 (イ)小さい角はどの象徴的な角から出て来ましたか。(ロ)どのようにしてローマは,聖書預言における6番目の世界強国になりましたか。しかし,それが象徴的な小さい角でなかったのはなぜですか。

16 歴史によれば,小さい角は四つの象徴的な角の一つ,つまり西の最も遠い所にある角から分かれ出るものでした。西の最も遠い所にある角とは,カッサンドロス将軍がマケドニアとギリシャを治めたヘレニズム王国のことでした。後年この王国は,トラキアと小アジアの王,つまりリュシマコス将軍の王国に吸収されます。西暦前2世紀には,これらヘレニズム王国の領土の西側の部分がローマによって征服されます。それから西暦前30年までには,ローマがヘレニズム王国をことごとく占拠し,聖書預言における6番目の世界強国となりました。しかし,ローマ帝国はダニエルの幻に出てくる小さい角ではありません。同帝国は「終わりの定められた時」までは存続しなかったからです。―ダニエル 8:19

17 (イ)英国とローマ帝国はどんな関係にありましたか。(ロ)大英帝国は,マケドニアとギリシャを支配したヘレニズム王国とどのような関係にありますか。

17 では,歴史的に見て,攻撃的で『顔つきが猛悪な王』はだれであることが分かるでしょうか。英国は実際のところ,ローマ帝国の北西部から分かれ出たものでした。今の英国がある場所には,西暦5世紀の初期に至るまで,ローマの属州が幾つか存在していました。時が流れ,ローマ帝国は衰退しましたが,ギリシャ・ローマ文化の影響は,英国でも,ローマの支配下にあったヨーロッパの他の場所でも,途絶えませんでした。ノーベル賞を受賞したメキシコの詩人で作家のオクタビオ・パスは,「ローマ帝国が崩壊して,教会がそれに代わる地位を占めるようになった」と述べ,「教会の教父たちと後代の学者たちは,キリスト教の教理にギリシャ哲学を継ぎ足した」と付け加えています。また,20世紀の哲学者で数学者のバートランド・ラッセルは,こう述べました。「ギリシャに端を発する西洋文明の基盤は,ミレトス[小アジアにあったギリシャの都市]で2,500年前に始まった哲学的かつ科学的伝統にある」。ですから,大英帝国の文化的ルーツは,マケドニアとギリシャを支配したヘレニズム王国にあると言ってよいでしょう。

18 「終わりの時」に『顔つきが猛悪な王』となった小さい角とは何ですか。説明してください。

18 1763年にはすでに,大英帝国は強力なライバルであったスペインとフランスを打ち負かしていました。それ以降,大英帝国は海の覇者で,聖書預言における7番目の世界強国であることを明らかに示しました。アメリカにあった13の植民地が英国から離脱し,アメリカ合衆国を建国した1776年以降でさえ,大英帝国は地表面積の4分の1,世界人口の4分の1を擁する国に成長しました。アメリカ合衆国が英国と提携して英米二重世界強国を形成するに及び,第七世界強国はいっそう強い力を得ました。この強国は経済的にも軍事的にも,まさに『顔つきが猛悪な王』となっていました。それで,「終わりの時」に猛悪な政治強国となった小さい角とは,英米世界強国のことです。

19 幻の中で述べられている「飾りとなる所」とは何ですか。

19 ダニエルは,「飾りとなる所」に向かって,小さい角が「非常に大きくなってい(く)」のを見ました。(ダニエル 8:9)エホバがご自分の選んだ民にお与えになった約束の地はたいへん美しい所だったので,「すべての地の飾り」,つまり全地の飾りと呼ばれました。(エゼキエル 20:6,15)確かに英国は1917年12月9日にエルサレムを攻略し,1920年には国際連盟が大英帝国にパレスチナの委任統治を割り当てました。その統治は1948年5月14日まで継続されました。しかし,問題の幻は預言的なものであり,多くの象徴表現を含んでいます。さらに言えば,幻の中で述べられている「飾りとなる所」とはエルサレムの象徴ではなく,第七世界強国の時代に,聖であると神からみなされる民の地上における状態を象徴しています。では,英米世界強国が聖なる者たちをどのように脅そうとしたかを調べてみましょう。

『その方の聖なる所の場所』は打ち捨てられる

20 小さい角が引きずり落とそうとする「天の軍」と「星」とは,だれのことですか。

20 小さい角は「天の軍に達するまでに大きくなっていき,その軍の幾らかと星の幾つかを地に落とし」ました。み使いの説明によれば,小さい角が引きずり落とそうとする「天の軍」と「星」は,「聖なる者たちで成る民」です。(ダニエル 8:10,24)これら「聖なる者たち」とは,霊によって油そそがれたクリスチャンのことです。その者たちは,イエス・キリストの流された血によって効力を発するようになった新しい契約を通して神との関係に入れられているため,神聖にされ,清められ,神への専心的な奉仕のために取り分けられます。(ヘブライ 10:10; 13:20)エホバはその者たちを,み子と共なる天の相続財産の相続人にならせたので,聖であるとみなされます。(エフェソス 1:3,11,18-20)ですから,ダニエルの幻に出てくる「天の軍」とは,子羊と共に天で統治する14万4,000人の「聖なる者たち」のうち,地上にいる残りの者のことです。―啓示 14:1-5

21 第七世界強国が荒廃させようとする「聖なる場所」を占めているのは,だれですか。

21 今日,14万4,000人の残っている者たちは,「天のエルサレム」― 都市に似た神の王国 ― およびその神殿の取り決めを地上で代表する人たちです。(ヘブライ 12:22,28; 13:14)この意味でその者たちは「聖なる場所」を占めており,第七世界強国はその場所を踏みにじり,荒廃させようとします。(ダニエル 8:13)ダニエルはその聖なる場所を「[エホバの]聖なる所の定まった場所」とも呼び,「その方[エホバ]から常供のものが取り去られた。また,その方の聖なる所の定まった場所は打ち捨てられた。さらに,軍そのもの,そして常供のものも共に徐々に引き渡されていった。それは違犯のためであった。それは真理を地に投げつけてゆき,行動して成功を得た」と述べています。(ダニエル 8:11,12)これはどのように成就しましたか。

22 第二次世界大戦中,第七世界強国はどのように顕著な「違犯」をおかしましたか。

22 第二次世界大戦中,エホバの証人はどんな経験をしたでしょうか。何とも厳しい迫害でした。それはナチやファシストの支配する国々から始まりましたが,程なくして,『力が強大になった小さい角』の広大な領土全体で,『真理が地に投げつけられる』ようになりました。王国宣明者の「軍」と,「良いたより」を宣べ伝えるその人々の業は,英連邦のほぼ全域において禁止されました。(マルコ 13:10)これらの国々は徴兵に際し,宗教上の奉仕者に認められる兵役免除をエホバの証人には与えようとせず,神の奉仕者としての神権的な任命に対する敬意を示しませんでした。アメリカ合衆国でも,エホバの忠実な僕たちは,暴徒の襲撃など,様々な侮辱を経験しました。第七世界強国は事実上,エホバの民が崇拝の「常供のもの」として定期的にエホバにささげてきた賛美の犠牲,つまり「唇の実」を取り去ろうとしたのです。(ヘブライ 13:15)このようにしてその世界強国は,至高の神が正当な権利を有する領土 ―「その方の聖なる所の定まった場所」― に侵入するという「違犯」をおかしました。

23 (イ)第二次世界大戦中,英米世界強国はどのように「君の君たる者に向かって」立ち上がりましたか。(ロ)「君の君たる者」とはだれですか。

23 小さい角は第二次世界大戦中に「聖なる者たち」を迫害することにより,「その軍の君に対してまで」大いに高ぶりました。つまり,み使いガブリエルの述べるとおり,「君の君たる者に向かって」立ち上がったのです。(ダニエル 8:11,25)「君の君たる者」という称号は,エホバ神にのみ当てはまります。「君」と訳されているヘブライ語サルは,「支配権を振るう」という意味の動詞と関連があり,王子あるいは王家の者を指すだけでなく,頭ないしは長たる者に当てはまります。ダニエル書は,例えばミカエルなど,君である他のみ使いたちのことも述べています。神はそのような君たちすべての長たる君であられます。(ダニエル 10:13,21。詩編 83:18と比較してください。)君の君たる者であるエホバに向かって立ち上がれる者のことなど,想像できるでしょうか。

「聖なる場所」は正しい状態にされる

24 ダニエル 8章14節はどんな保証を与えていますか。

24 だれも君の君たる者に向かって立ち上がることなどできません。英米世界強国のように『顔つきが猛悪な』王もそうすることはできません。神の聖なる所を荒廃させようとするこの王の試みは成功しません。音信を伝えるみ使いの言葉によれば,「二千三百の夕と朝」が経過した後,「聖なる場所は必ずその正しい状態にされる」,または「勝利を得て現われる」のです。―ダニエル 8:13,14;「新英訳聖書」。

25 預言的な2,300日の期間はどれほどの長さですか。それはどんな出来事と関連しているに違いありませんか。

25 2,300日は預言的な期間です。したがって,これに関係しているのは,360日から成る預言的な1年です。(啓示 11:2,3; 12:6,14)それで,この2,300日は,6年に4か月と20日を加えたものに相当します。それはいつのことでしょうか。1930年代に,神の民は様々な国で迫害が増し加わるのを経験するようになりました。また,エホバの証人は第二次世界大戦中,英米二重世界強国に属する幾つかの国で猛烈な迫害を受けました。なぜでしょうか。証人たちが,「自分たちの支配者として人間より神に従(うこと)」を強く主張したからです。(使徒 5:29)ですから,2,300日はその戦争と関連しているに違いありません。 * しかし,この預言的な期間の始まりと終わりについては何と言えますか。

26 (イ)2,300日を数える際に起点とすべき日は,どんなに早くても,いつより前ではありませんか。(ロ)2,300日の期間はいつ終わりましたか。

26 「聖なる場所」がそのあるべき状態に「される」,もしくは回復されるまでの2,300日は,その場所が以前,神の観点から見て「正しい状態」にあった時を起点としているに違いありません。それはどんなに早くても,1938年6月1日より前ではありません。その時,「ものみの塔」誌(英語)は「組織」と題する記事の第1部を発表しました。第2部は1938年6月15日号に掲載されました。1938年6月1日ないしは15日を起点として2,300日(ヘブライ暦で6年4か月と20日)を数えると,1944年10月8日ないし22日になります。1944年9月30日と10月1日に米国のペンシルバニア州ピッツバーグで開かれた特別な大会の初日に,ものみの塔協会の会長は,「今日の神権的路線」と題する話をしました。10月2日に行なわれた法人の年次総会では,法律の許す範囲内で協会の定款を神権的取り決めに近づける努力の一環として,その定款が修正されました。聖書的な要求を明確にした出版物が備えられ,神権組織は程なくして,エホバの証人の諸会衆内にいっそう十分に確立されるようになりました。

27 迫害が頻発した第二次世界大戦の期間中,「常供のもの」が制限されたことを示すどんな証拠がありますか。

27 1939年に始まった第二次世界大戦中に2,300日が経過してゆく間,神の聖なる所における捧げ物,つまり「常供のもの」は迫害のため大幅に制限されました。1938年の時点で,ものみの塔協会には,全世界の証人たちの業を監督する支部が39ありましたが,1943年の時点では,21しかありませんでした。その期間における王国宣明者の増加もわずかでした。

28,29 (イ)第二次世界大戦の終結が近づいたころ,エホバの組織ではどんな事態の進展が見られましたか。(ロ)「聖なる場所」を荒廃させ,破壊しようとする敵の悪らつな企てについては,何と言えますか。

28 これまで注目してきたように,エホバの証人は第二次世界大戦の末期に,神権的組織として神に仕えることによりエホバ神の支配権を大いなるものとする決意を再確認しました。そのことを目的として,エホバの証人の業と統治機構の再調整が1944年に開始されました。実際,「ものみの塔」誌(英語),1944年10月15日号には,「最終的な業のために組織される」と題する記事が含まれていました。この記事,および奉仕に重点を置いた同じ時期の他の記事は,2,300日が終了し,「聖なる場所」がその「正しい状態」に戻されたことを示しています。

29 「聖なる場所」を荒廃させ,破壊しようとする敵の悪らつな企ては完全に失敗していました。実際,地上に残っている「聖なる者たち」は,仲間である「大群衆」と共に勝利を得ていました。(啓示 7:9)ですから,正当かつ神権的な状態になった聖なる所は,その後エホバへの神聖な奉仕をささげ続けることになります。

30 近い将来,『顔つきが猛悪な王』はどうなりますか。

30 英米世界強国は今も自らの立場を保っています。「[しかしそれは,]人手によらずして砕かれることになる」と,み使いガブリエルは告げました。(ダニエル 8:25)聖書預言におけるこの第七世界強国 ― この『顔つきが猛悪な王』― は,ごく近い将来,人間の手によらず超人間の力によって,ハルマゲドンで砕かれます。(ダニエル 2:44。啓示 16:14,16)その時,君の君たる者であられるエホバ神の主権が立証されるというのは,何と喜ばしいことでしょう。

[脚注]

^ 1節 聖書の中で特に重要な七つの世界強国は,エジプト,アッシリア,バビロニア,メディア-ペルシャ,ギリシャ,ローマ,英米二重世界強国です。これらの国はすべて,エホバの民との接触を持ってきたゆえに注目に値します。

^ 25節 ダニエル 7章25節も,『至上者に属する聖なる者たちが絶えず悩まされる』期間について述べています。前の章で説明されているように,その期間は第一次世界大戦と関連していました。

どのような理解が得られましたか

● これらは何を表わしていますか

「二本の角」のある「雄羊」

「大いなる角」を持つ「毛深い雄やぎ」

「大いなる角」の場所に生えて来た四つの角

その四つの角の一つから出て来た小さい角

● 第二次世界大戦中,英米世界強国は「聖なる場所」をどのように荒廃させようとしましたか。それは成功を見ましたか

[研究用の質問]

[166ページの地図/図版]

(正式に組んだものについては出版物を参照)

メディア-ペルシャ帝国

マケドニア

エジプト

メンフィス

エチオピア

エルサレム

バビロン

エクバタナ

スサ

ペルセポリス

インド

[169ページの地図/図版]

(正式に組んだものについては出版物を参照)

ギリシャ帝国

マケドニア

エジプト

バビロン

インダス川

[172ページの地図]

(正式に組んだものについては出版物を参照)

ローマ帝国

ブリタニア

イタリア

ローマ

エルサレム

エジプト

[164ページ,全面図版]

[174ページの写真]

英米世界強国の著名な人物:

1. 米国の初代大統領,ジョージ・ワシントン(1789-1797)

2. 英国のビクトリア女王(1837-1901)

3. 米国の大統領,ウッドロー・ウィルソン(1913-1921)

4. 英国の首相,デービッド・ロイド・ジョージ(1916-1922)

5. 英国の首相,ウィンストン・チャーチル(1940-1945,1951-1955)

6. 米国の大統領,フランクリン・D・ルーズベルト(1933-1945)