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「世の終わり」は近いか

「世の終わり」は近いか

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「世の終わり」は近いか

「あなたは世の終わりに備えていますか」。トロント・スター紙のこの問いかけに,次のような新聞記事を思い出した人たちもいることでしょう。

「オーストラリア,シドニー発 ― オーストラリアの奥地では,『世の終わり』は迫っていると信じ,家も現代生活のぜいたく品も捨てた都市生活者100名から成るあるグループが,『世の終わり』を迎える準備をしている」。

2 核戦争,汚染その他の危険が実際に存在するために,「終わり」が来る可能性は十分にあり得ると見て心配している人は今日少なくありません。例えば,

「科学著述家アイザック・アシモフは,太陽の消滅から飢きんに至るまで,地球上の生物が絶滅する原因となり得るものを20ほど挙げている」― トロント・スター紙。

3 しかし,わたしたちには,憂慮すべきさらに重大な理由,信頼できる神の言葉に基づいた理由があります。「世の終わり」について聖書で読んだことのある人は大勢います。(マタイ 13:39,40; 24:3,欽定訳,新アメリカ聖書)神の約束は何でも必ず成就することを知っているわたしたちは,「世の終わり」に関して聖書が述べている事柄,そしてそれが現在と将来のわたしたちの生活にどのような影響を及ぼすかを知りたいと思うはずです。

何の終わり? それはいつ来るか

4 聖書は,神が悪や苦しみを増大させる者たちを根絶なさることを約束しています。(詩 37:28; 145:20)イエス・キリストも使徒ペテロも,近付いているこの刑の執行を,神がノアの時代に人類にもたらした選択的な滅びにたとえています。全地球的な洪水で滅ぼされたのは地球そのものではなく,邪悪な者たちでした。神はノアとその家族を生き残らせました。ノアの家族は清められた地球上で義にかなった地的社会を形成しました。このことに言及した後,ペテロは神の霊感を受けて,「不敬虔な人々の裁きと滅びとの日」が来ることを予告しました。その後,『義の宿る新しい天と新しい地』が到来します。―ペテロ第二 3:5-7,13。伝道 1:4。イザヤ 45:18

5 現在の事物の体制がそのように滅ぼされて終わるのがいつかを知りたいと願うのは当然です。イエスによれば,「その日と時刻」を知っているのはみ父だけです。(マタイ 24:36)では,わたしたちには全く何も分からないのでしょうか。そうではありません。神は,ご親切にも,ご自分の崇拝者がその時の近付いているのを知ることができるよう,そのための情報をみ言葉の中に含めておられます。―アモス 3:7と比較してください。

6 聖書は,将来の出来事を予告する神の能力を信頼する理由を与えてくれます。例えば,ダニエル書 9章24-27節に,ダニエルは,メシアもしくはキリストの出現に関する預言を記録しています。第1世紀の医師ルカは,ダニエルの預言を知っていたユダヤ人が,西暦29年にメシアを待っていたことを述べています。(ルカ 3:1,2,15)ユダヤ人の学者アバ・ヒレル・シルバーの意見もこれと一致しており,「メシアは,西暦1世紀の第2,四半世紀ごろに出現を期待されていた」と書いています。イエスは,ダニエルの預言によって示されていた正にその年,すなわち西暦29年にバプテスマを受けてキリストになられました。

7 ダニエル書のその預言は,メシアの死後『その都市と聖なる所とが破滅に至らせられる』ことを予告していました。神は,エルサレムとその神殿が滅ぼされ,当時存在していたユダヤ教の事物の体制が終わることをあらかじめ告げておられたのです。―ダニエル 9:26,新。

8 イエスは,西暦33年に亡くなりましたが,その少し前に,この点をさらに詳しく話され,神はエルサレムと神殿を見捨てられたと言われました。また,わたしは去るが,後ほどまたもどって来るとも言われました。(マタイ 23:37–24:2)しかし,イエスの弟子たちは次のように尋ねました。

わたしたちにお話しください。そうしたことはいつあるのでしょうか。そして,あなたの臨在と事物の体制の終結[あるいは,『世の終わり』]のしるしには何がありますか」― マタイ 24:3

9 イエスの答えは,1世紀のクリスチャンにとって生死を決するほどの重要性を帯びたものでした。それは,わたしたちにとっても同様に大切です。なぜなら,後で分かりますが,イエスの答えには,使徒たちが質問した事柄や理解し得た事柄以上に深い意味が含まれていたからです。―ヨハネ 16:4,12,13

10 イエスはダニエルの預言に言及されました。(マタイ 24:15)その預言は,エルサレムの荒廃の年を正確に指し示したものではありませんでした。イエスも,その年を預言されたのではありません。イエスは,ユダヤ人の体制が終わりの時代にあることの「しるし」を成す出来事を述べられたのです。イエスのその言葉は,マタイ 24章4-21節とルカ 21章10-24節に記されています。イエスは偽のメシア(キリスト)が現われること,戦争,食糧不足,地震,疫病,クリスチャンの迫害などがあること,また伝道活動が広範に行なわれることを予告されました。歴史は,それらの事柄が,ローマ人による西暦70年のエルサレムの破滅まで生存していた人々の世代のうちに起きたことを証明しています。

偽キリスト: 1世紀の歴史家ヨセフスはメシアととなえる者が3人いたことを述べている。

戦争: アジアの南西部ではパルチア戦争が,ゴールとスペインでは反乱が,ローマ帝国の領内ではユダヤ人の暴動が,またユダヤ人に対するシリア人とサマリア人の暴動があった。

飢きん: ローマ,ギリシャ,ユダヤに飢きんが起きた。使徒11章28節で述べられているのはその一つである。

地震: クレタ島,スミルナ,ヒエラポリス,コロサイ,キオス,ミレトス,サモス,ローマおよびユダヤに地震が起きた。

クリスチャンは迫害されたが広範に伝道した: このことは,使徒 8:1,14; 9:1,2; 24:5; 28:22に記録されている。

11 クリスチャンたちはイエスの預言を確信していたので,命を守るための措置を取ることができました。キリストは『エルサレムが野営を張った軍隊に囲まれるのを見たなら,逃げなさい』と警告しておられました。(ルカ 21:20-24)予告通り,ガルス将軍指揮下のローマ軍は西暦66年の10月にエルサレムを包囲しました。クリスチャンはどうして逃げることができたでしょうか。ローマ軍が不意に撤退したからです。クリスチャンたちはイエスの警告に従ってエルサレムの町を逃れました。しかし,西暦70年には,ローマ軍はティツス将軍に率いられて再び来襲しました。そしてエルサレムを荒らし,100万人を上回るユダヤ人を殺しました。ローマに行くと,それを記念した浮き彫りをティツスの凱旋門に見ることができます。

12 ユダヤ教の体制の終わりの日の間に起きた事柄は,イエスがお与えになった「しるし」が全く信頼できることを証明しています。これはわたしたちにとって大切な事です。なぜなら,「事物の体制の終結」に関するイエスの預言は今日はるかに大きな意味を持っているからです。

イエスの預言のもう一つの成就

13 偽キリスト,戦争,飢きん,地震,クリスチャンに臨む迫害などに関してイエスが予告されたことは西暦70年以前に成就しました。しかし,イエスは,明らかに後の時代に起ころうとしていた事柄も追加して預言されました。そして,「地のすべての部族」が天の栄光に輝くイエスの臨在を認めざるを得なくなると言われました。(マタイ 24:30)また,人々が「羊をやぎから分けるように」分けられ,羊のような人々は永遠の命に入ることも予告されました。(マタイ 25:32,46)これらの事柄は西暦70年にもそれ以前にも起きませんでした。

14 エルサレムの陥落から25年余り後,神は使徒ヨハネを通して啓示の中に将来の出来事を書き記させました。その第6章で,ヨハネは,地に災難をもたらす「騎士」を前もって見ました。啓示 6章3-8節を読むとヨハネが(1)戦争,(2)「食糧不足」(3)「死の災厄」を予告していることが分かります。これらは,正にイエスが「しるし」として預言された事柄の一部です。このように,イエスが予告された事柄には,2番目の,あるいはより大規模な成就があるということの付加的な証拠があります。A・T・ロバートソン教授はその点についてこう述べています。

「イエスが,その世代中の西暦70年に確かに生じた神殿とエルサレムの滅びを,自分自身の再臨,および世の終わりもしくは時代の終結の象徴としても用いたと考えるのは,我々の目的に十分かなうことである」―「新約聖書の中の言葉による描写」第1巻188ページ。

15 『しかし,戦争や飢きんや疫病はいつの時代にもあった。とすると,「しるし」の2番目の成就はどのようにして見分けるのか』と言う人がいます。

16 しるしとなるからには,局地的な戦争やある地方だけに生じた疫病,あるいは1回だけ起きた地震とは異なる,際立ったものでなければならないことは言うまでもありません。啓示 6章4節には戦争が,「[一国とか一地方からではなく]から平和を取り去る」と述べられていることに注意してください。それに,イエスはしるしが複合のものであることを示されました。ですから,二,三の例を挙げるなら,広範囲にわたる戦争のほかにひどい飢きんや地震や疫病なども生じます。それらがみな一つの世代に臨むのです。(マタイ 24:32-34)このことを理解したうえで人類史を見,「事物の体制の終結のしるし」が今現われていることを,多くの人ははっきりと悟るのです。

現代に見られる「しるし」

17 啓示 6章4節は世界戦争があることを示していました。それは実際にあったでしょうか。1914年から1918年にかけて行なわれた戦争を皮切りに,確かに起きています。特別欄執筆者のシドニー・J・ハリスは,『第一次世界大戦は,世界人口の90%以上を擁する国々を巻き込んだ』と書いています。アメリカ百科事典によれば,第一次世界大戦で,800万人以上の兵士が殺され,1,200万人を超える民間人が大量殺りくや飢餓,あるいは遺棄によって死にました。

18 それ以前には世界戦争を行なうだけの輸送手段や技術がなかったにすぎない,と言ってこのことを片付けようとする人がいます。しかし,そのことこそ第一次世界大戦の特殊性を強調するものです。

「1914年8月以来,時が経過するにつれ,第一次世界大戦のぼっ発は一時代の終わりを意味していたということが次第に明らかになっていった」―「ノートンの近代ヨーロッパ史」。

「第一次世界大戦は ― 生存者たちにとっては単にThe Great War(大戦)にすぎないが ― 現代史の重大な分岐点として人々の心に残っている。……現代は第一次世界大戦に始まったと,大部分の人が無意識のうちに考えているが,それにはある程度の真理がある。我々はこの第一次世界大戦で,そぼくさを失ってしまったのである」― モントリオールのガゼット紙。

「1918年は千年期を招来せず,半世紀にわたる戦い ― それ以前には見られなかった,あるいは想像もしなかった大規模の動乱,戦争,革命,荒廃,破壊をもたらした」― H・S・コマジャー教授。

19 聖書が示していた通り,確かに,『想像もしなかった大規模の戦争が生じました』。その後間もなく第二次世界大戦が起こり,「3,500万から6,000万」の人命が奪われました。

「第二次世界大戦は,全世界と言ってよいほどの範囲に死と荒廃をもたらした。その規模はかつて経験したことのないものであった。……破壊された資産や生計手段を金銭に換算しようとする試みはむだである。その額は天文学的数字に上るからだ」― アメリカ百科事典。

また,1945年以後行なわれた多くの戦争のほかに,現在では核戦争の脅威があります。

20 「しるし」の大規模な成就が第一次世界大戦と共に始まったことを示すもう一つの証拠は,前例のない病気です。(ルカ 21:11)「サイエンス・ダイジェスト」誌は,それ以前にも,何十年かの期間に大勢の人が疫病で死んだことを認め,その後,1918年のスペインかぜがそれよりずっとひどかったことを示しています。

「この戦争では,4年にわたる執ような戦闘で2,100万人を上回る人が死んだ。しかし,スペインかぜの流行は4か月ほどの間にほぼ同じくらいの人命を奪った。これほど手の施しようがなく,人が次々と死んでいったことは歴史上ないことであった。……一人の医師はそれを,医学上の空前の大災害と呼んだ」。

「世間では普通,死者2,100万人とされているが,それは『実際よりかなり低く見積っているのだろう』。インド亜大陸だけでも,それくらいの人が死んだことは十分に考えられる。1918年10月におけるインド亜大陸の死亡率は『疾病史上他に例のない』ものであった」― 科学アメリカ誌。

科学者たちも病気による死を阻止できないでいます。一つの病気が「征服された」と思うと,手に負えない別の病気が現われます。人間は月にロケットを飛ばしますが,マラリア,ガン,心臓病などはいまだに克服していません。

21 イエスは,『そこからここへと地震がある』ことも「しるし」の一部であると言われました。(マタイ 24:7。ルカ 21:11)歴史を通じていつの時代にも地震はありました。しかし,第一次世界大戦以後の時代はどのように違うのでしょうか。ゲオ・マラゴリはイル・ピッコロ紙の中でこう述べています。

「統計から分かるように,我々の世代は地震活動の盛んな,危険な時代に住んでいる。事実,信頼できる筋の記録によれば,1,059年間(856年から1914年まで)に起きた大地震は24にすぎず,死者は197万3,000人であったが,最近では,わずか63年間に160万人が死んでいる。これは1915年から1978年までに起きた43の地震で死亡した人の数である。この劇的な増加は,広く認められている一つの事実,すなわち我々の世代は多くの点で不幸な世代であるということを一層強調するものである」。

22 第一次世界大戦以来地震による死亡者数が増えたのは,世界人口の増加や,都市が大きくなっていることに原因があると言う人がいるかもしれません。たとえそうだとしても,起きた事実に変わりはありません。飢きんについても同様のことが言えます。緑の革命など,食糧生産の面で進歩が見られたにもかかわらず,次のようなニュースが報道されています。

「この世に生きている人間のうち,少なくとも8人に一人は今なお何らかの形の栄養失調にかかっている」。

「国連世界食糧会議はこの秋オタワで会合し,毎年5,000万人が餓死していることを確認した」。

「世界の食糧機関は,今年十分の食糧を得られない人は10億人を上回ると見ている」。

23 「不法が増すこと」や愛が冷えることも「事物の体制の終結」をしるし付ける証拠です。(マタイ 24:3,12)今日この言葉が成就していることを確信するのに,犯罪やテロ行為の統計などいらないでしょう。しかし,この点に関しては,「終わりの日」のことが預言的に詳しく述べられているテモテ第二 3章1-5節を読んで,それが現在起きている事柄にいかに正確に当てはまるかをご覧ください。

それはあなたにとって何を意味するか

24 イエスは,「しるし」の成就によって悩む人が大勢いることを予告されました。「人びとは,人の住む地に臨もうとする事がらへの恐れと予想から気を失います」。しかし,イエスの追随者の場合は違うでしょう。イエスは弟子たちに「これらの事が起こり始めたなら,あなたがたは身をまっすぐに起こし,頭を上げなさい。あなたがたの救出が近づいているからです」と言われました。(ルカ 21:26,28)実際に起きている事柄を無視してはなりません。偶然の一致として片付けるのも分別を欠いた行為です。エルサレムに住んでいた人々で,イエスの預言の当時における成就を無視した人々は命を失いました。イエスはわたしたちに,『のがれることができるよういつも目ざめていなさい』と命じておられます。―ルカ 21:34-36

25 現在の邪悪な事物の体制の終わりを生き残ることは確かに可能です。終わりの来る正確な「日と時刻」はだれにも分かりませんが,わたしたちの時代に地上で起きた事柄はそれがごく近いことを証明しています。しかし,わたしたちに求められているのは,『いつも目ざめている』ことだけではなく,それを考えや行動に表わすことです。(マタイ 24:36-42)ペテロはこう書いています。「神の日を待っているのですから,清い,献身した生活を送るべきです。……純粋で欠点のない者となるように最善を尽くしなさい」― ペテロ第二 3:11-14,福音聖書。

26 「しるし」の一部として,イエスは,「王国のこの良いたよりは,あらゆる国民に対する証しのために,人の住む全地で宣べ伝えられるでしょう。それから終わりが来るのです」と言われました。(マタイ 24:14)その活動に正しく参加するには,その「王国」とは何か,また終わりが近い今それがなぜそれほど大切かを知る必要があります。では次にその点を調べましょう。

[研究用の質問]

「世の終わり」に関心を持たねばならないのはなぜですか。(1-3)

聖書によれば,終わるのは何ですか。(4)

「終わり」が来ることをわたしたちはなぜ確信できますか。(5,6)

イエスはユダヤ教の事物の体制についてどんなことを預言されましたか。そして何が起きましたか。(7-10)

「しるし」を理解するのはどれほど重要なことでしたか。(11,12)

「しるし」がもう一度成就することをどうして期待すべきですか。それは最初の成就とどのように異なっているでしょうか。(13-16)

予告されていた戦争はわたしたちの時代にどのように起きましたか。(17-19)

疫病についてはどのように成就しましたか。(20)

「しるし」が成就している証拠として他に何を挙げることができますか。(21-23)

現在「しるし」が成就していることは,あなたの生活とどのような関係がありますか。(24-26)

[140ページの囲み記事]

「世界の終わりに関する予言は昔からなされてきた。……しかし今日では,なくなりそうもない不吉なきざしが見えている。最も明敏な政治家でさえ解決できそうにない『人民の問題』,核を保有する世界の過激派分子,また人類が取り替えのきかない自分たちの環境を白アリのようにむしばんでいることなどがそれである」― カナダ,オンタリオ州の「スペクテイター」紙。

[147ページの囲み記事]

「戦争について説明することが容易であったためしはないが,中でも第一次世界大戦は一番説明のつかない戦争であったと言えよう。歴史家が戦争の原因として挙げる対立や同盟は通り一遍のもので,はるかに重大な強い感情が底流としてある。それは今世界を悩ましている焦燥感である。……第一次世界大戦が終わるか終わらないうちに,世界は次の戦争の準備を始めていた」― AP通信社のバリー・レンフルー。

「1914年8月4日に始まった出来事は……道徳的政治秩序を破壊し,国際的な力の均衡を破り,世界の出来事を動かすヨーロッパの役割を終わらせ,その間に数千万の人を殺した。……世界は1914年に調和を失い,以来それを取りもどせないでいる」― ロンドンの「エコノミスト」誌。

[149ページの囲み記事]

地震による死亡者

(1,122年間に基づく概算)

1914年まで ― 年間1,800人

1914年以来 ― 年間2万5,300人

[144ページの図版]

クリスチャンたちは,イエスの警告に従い,ローマ軍がエルサレムを滅ぼす前にエルサレムから逃げた