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どうして自分がいやになるのだろう

どうして自分がいやになるのだろう

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どうして自分がいやになるのだろう

「私は何の取り柄もない人間だと思うわ」と,ルイーズは悲しそうに言いました。あなたも時々自分をいやに思うことがありますか。

実際,だれでもある程度の自尊心を必要とします。自尊心は「人間存在に尊厳を付与する要素」と言われてきました。それに聖書も,「隣人を自分自身のように愛さねばならない」と述べています。(マタイ 19:19)もし自分をいやに思うなら,他の人たちのことも恐らくいやに思うでしょう。

『自分は何一つまともにできない』

どうして自分のことをそのように消極的に見るのでしょうか。一つには,自分に限界があるために気持ちがくじけるのかもしれません。大人になりつつある時には,物を落としたり,物にぶつかったりして毎日のようにばつの悪い思いをする,動作のぎこちない時期があるものです。その上,落胆してもすぐに立ち直れるような大人の経験が全くありません。また,「知覚力」が「使うことによって」十分に訓練されていないため,いつも一番賢明な決定を下すとは限りません。(ヘブライ 5:14)何一つまともにできない,と感じる時もあるでしょう。

親の期待にそえないということも,自尊心が弱くなる原因かもしれません。「学校で『A-』を取ると両親から,どうして『A』が取れなかったのかと聞かれ,お前はだめだと言われる」と,ある若者は言います。もちろん,最善を尽くすよう子供を激励するのは親の本能です。ですから子供は,無理のない期待にそえないと,まず間違いなく親の小言を聞くことになるでしょう。聖書はこのように助言しています。「我が子よ,あなたの父の懲らしめに聴き従え。あなたの母の律法を捨て去ってはならない」。(箴言 1:8,9)落胆するよりもむしろ批判を冷静に受け止め,それから教訓を得るようにしましょう。

しかし親が公平を欠いた比較をする場合(「なぜポール兄さんのようになれないの。兄さんはいつも優等生だったのよ」)はどうでしょうか。そのような比較は,その時にはつらく思えるかもしれませんが,説得力のある場合も多いのです。ご両親はあなたのためにただ最善を望んでおられるのです。もしご両親の圧力が強すぎるように感じるなら,冷静に話し合うのはどうでしょうか。

自尊心を培う

弱くなった自尊心を強めるにはどうすればよいでしょうか。まず,自分の長所と短所を正直に見てみます。あなたのいわゆる欠点の多くは,ごくささいなものであることに気づくでしょう。短気とか利己主義などの重大な欠陥についてはどうでしょうか。これらの問題については良心的に努力しましょう。そうすれば,あなたの自尊心は確かに培われていきます。

さらに言えば,あなたがすでに持っている長所を見過ごしてはいけません。料理ができるとか,パンクしたタイヤを修理できるといったことなど,大して重要ではないと思っているかもしれません。しかし,おなかをすかせた人や,車が立ち往生してしまった人は,そのような腕を持つあなたに感心するでしょう。あなたの道徳的な美点についても考えてみてください。あなたは勤勉ですか。忍耐強いですか。同情心がありますか。寛大ですか。親切ですか。これらの特質には,ささいな弱点をはるかに上回る価値があります。

次の簡単なチェックリストを検討してみるのも助けになるでしょう。

現実的な目標を設ける: いつも高すぎる目標を目指していると,ひどく失望するかもしれません。達成可能な目標を設けましょう。タイプなどの技術を身につけるのはどうでしょうか。楽器の演奏や外国語を学ぶのもよいでしょう。読み方を改善したり,読書の幅を広げたりすることもできます。自尊心は,物事を成し遂げた際の有益な副産物なのです。

良い仕事を行なう: いい加減な仕事をしていると,自分のことを良く思えなくなります。神はご自分の創造の業に喜びをお感じになり,創造の一時代が終わる度にそれを「良い」と宣言されました。(創世記 1:3-31)家庭や学校でどんな仕事をするにせよ,上手にまた良心的に行なうなら,その仕事を楽しむことができます。―箴言 22:29参照。

他の人々のために物事を行なう: 自分は何もしないで,他の人々にまめまめしく仕えてもらうのでは自尊心は得られません。イエスは,『だれでも偉くなりたいと思う者は奉仕者』,つまり他の人々の僕でなければならないと言われました。―マルコ 10:43-45

例えば17歳のキムは,夏休みの間,他の人々が聖書の真理を学ぶのを助けることに月々60時間を費やす予定を立てました。「それによって私はエホバに一層近づくことができました。またそれは人々に対する真の愛を培うのに役立ちました」と,彼女は言います。この幸福な若い女性が自尊心に欠けることは恐らくないでしょう。

注意深く友達を選ぶ: これは17歳になるバーバラの言葉です。「自分自身との関係は非常に惨めなものです。自分を信頼してくれる人々と一緒にいるときは良い仕事ができます。自分を機械の付属品か何かのように扱う人と一緒だとばかみたいになります」。

高慢な人や無礼な人と接触すると,自分がつまらない人間であるかのような気持ちにさせられます。ですから,あなたの福祉に本当に関心を持ち,あなたを向上させてくれる友達を選びましょう。―箴言 13:20

神を最も親しい友とする: 「エホバはわたしの大岩,わたしのとりで……です」と,詩編作者ダビデは宣言しました。(詩編 18:2)ダビデが確信していたのは自分の能力ではなく,エホバとの親密な友情でした。そのため,後に逆境に見舞われた時も平静さを失うことなく,厳しい批判に耐えることができました。(サムエル第二 16:7,10)あなたも「神に近づき」,自分ではなくエホバを「誇る」ことができます。―ヤコブ 2:21-23; 4:8。コリント第一 1:31

行き詰まり

ある著述家は,「性格の弱い,自尊心のない青年は時々,表面を装って世に臨もうとすることがある」と言いました。そのうちの一部の青年たちが演じる役どころはよく知られています。“腕っぷしの強い男”,乱交界の名士,奇抜な服装のパンクロッカーなどです。しかし,そういう青年たちはその見かけの背後で,やはり劣等感と闘っているのです。―箴言 14:13

例えば,乱交にふける人たちのことを考えてみましょう。その目的は,「憂さ晴らし,(求められていると感じることによって)自尊心を高める,親密な関係を得る,妊娠によって別の人間,つまり疑わずに自分を受け入れてくれる赤ちゃんの愛を得る」ことなのです。(「十代の憂うつに対処する方法」)幻滅を感じた一人の若い女性は次のように書いています。「私は性的に親密な関係から慰めを得ようとして,創造者との強固な関係を築く努力を怠りました。私が築き上げたものといえば,むなしさと寂しさと,ますます憂うつな気分だけでした」。ですから,そのような行き詰まりに注意しましょう。

警告の言葉

興味深いことに,聖書は,自分を過度に高く評価しないようしばしば警告しています。なぜでしょうか。それは恐らく,わたしたちのほとんどが,自信を得ようとして度を過ごす傾向があるからでしょう。自己中心的になって,自分の技術や能力を誇張する人は少なくありません。他の人を見下げて自分を高める人もいます。

1世紀にローマの会衆は,ユダヤ人と異邦人(非ユダヤ人)の間の激しい対立に悩まされていました。そこで使徒パウロは異邦人たちに,彼らが神の恵みという立場に「接ぎ木」されたのは,ただ神の「ご親切」によるものであることを思い出させました。(ローマ 11:17-36)独善的なユダヤ人も,自分自身の不完全さに直面しなければなりませんでした。「というのは,すべての者は罪をおかしたので神の栄光に達しないからで(す)」と,パウロは述べています。―ローマ 3:23

パウロは彼らから自尊心を取り去ることはしませんでしたが,こう言いました。「わたしは,自分に与えられた過分のご親切によって……すべての人に言います。自分のことを必要以上に考えてはなりません」。(ローマ 12:3)ですから,ある程度の自尊心を持つことは「必要」ですが,この点で極端になるべきではありません。

アラン・フロム博士はこう観察しています。「自分について適正な考えを持つ人は,悲しみに沈むことはなく,かと言って喜びで有頂天になる必要も感じない。……その人は悲観的ではないが,その楽観的な考えも制御されないわけではない。無謀でもなければ,特定の恐れを全く抱かないわけでもない……常にすばらしい成功を収めるというわけではないが,何をやっても失敗するというわけでもないことをその人は悟っている」。

ですから慎み深くなければなりません。「神はごう慢な者に敵し,謙遜な者に過分のご親切を施される」のです。(ヤコブ 4:6)自分の長所を認めましょう。しかし欠点も無視してはなりません。むしろ欠点を改善する努力を払ってください。それでも時々自分を信じかねる時があるでしょう。しかし,自分の価値や,神があなたを気遣っておられるということを決して疑う必要はないのです。「人が神を愛しているなら,その人は神に知られている」からです。―コリント第一 8:3

討論のための質問

□ なぜある若者たちは自分について消極的な考えを持っていますか。そのように考える若者の気持ちが分かりますか

□ あなたならご両親の要求をどのように扱いますか

□ 自尊心を培うどんな方法がありますか

□ 自尊心を培う際にどんな行き詰まりがありますか

□ 自分を過度に高く評価しないよう注意することはなぜ大切ですか

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自尊心は「人間存在に尊厳を付与する要素」と言われてきた

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あなたはがっかりしたり,劣等感を感じたりしますか。解決策はあります

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自慢家やほら吹きになることは,自尊心の弱さの解決にはならない

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自分は何一つまともにできないと思うことがありますか