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学校をやめるべきだろうか

学校をやめるべきだろうか

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学校をやめるべきだろうか

ジャックは学校の職員で,生徒の出欠に関係した仕事を25年以上行なってきました。ですからずる休みをする子供は,ジャックがまだ聞いたことのない言い訳を考え出すのに苦心します。「『今日は何だか病気になりそうな気がした』……『アラスカに住むおじいさんが死んだ』など,あらゆることを聞かされる」と,ジャックは言います。ジャックの“お気に入り”の言い訳は,3人の少年が言った,「霧がとても深くて学校が見つからなかった」というものです。

こうした,相手がめんくらうほどいい加減な口実から分かるとおり,多くの若者は学校を嫌っており,大抵,無関心な態度(「まあ,いいんじゃあないですか」)や,あからさまな敵意(「学校なんていやだ! 大きらいだ」)など,さまざまな反応を示します。例えばゲーリーは,学校へ行くために起きると,すぐに胃のぐあいが悪くなりました。「学校へ近づくとじっとりと汗がわき,不安になりました。……家に帰るしかありませんでした」と,彼は言いました。同様に多くの若者は,学校に対する病的な恐れを抱いており,医師たちはこれを学校恐怖症と呼びます。その原因となるのは大抵,校内暴力,仲間の残虐行為,良い成績を取らせようとする圧力などです。そういう若者たちは(親が少し説得すると)学校へ行くかもしれませんが,絶えず不安を感じ,肉体的な苦痛さえ味わいます。

登校拒否の子供たちの数が驚くほど多いのも不思議ではありません。米国だけでも小中学校の児童生徒の欠席者数は毎日約250万人に上るのです! さらに,ニューヨーク・タイムズ紙に載ったある記事によると,ニューヨーク市内の高校では「長期欠席」が非常に多い(約3分の1)ので,「その生徒たちを教えることは不可能に近い」ということです。

もっと思い切った行動をとる若者もいます。「学校なんて退屈だったし厳しすぎた」と,ウォルターという青年は言いました。彼は高校を中退しました。アントニアという名の少女も中退しました。学校の勉強について行けなかったのです。「読んでいることが理解できないのにどうして勉強ができるの? ただ座っているだけで,段々ばかみたいになっていくからやめたの」と,彼女は言いました。

明らかに,世界中の学校制度が深刻な問題に悩まされています。しかしこれは,学校への関心を全く失い,途中でやめてしまう理由になりますか。学校をやめると,その後の人生にどんな影響のあることが考えられますか。卒業するまで学校にきちんと通うことには十分の理由がありますか。

教育の価値

マイケルは,高校卒業証書に相当する免状を得るために学校へ戻りました。その理由を聞かれて,「自分に教育が必要であることに気づいたからです」と,彼は答えました。しかし正確に言って「教育」とは何でしょうか。多くの印象的な事実を暗唱する能力ですか。そうであれば,教育はたくさんのレンガを積み重ねて家を作るのと変わらないことになります。

教育は大人になってからの生活を立派にやってゆく備えをするためのものです。学生部長を18年間務めているアレン・オースティルは,「どのように考え,どのように問題を解決するか,何が合理的で何が不合理かを教え,明確に考える基本的な能力を育成し,データとは何かを知ることや,各部分と全体の関係を知ることなどを教える教育,また,さまざまな事柄を判断し区別することや,学習の仕方を学ぶよう教える教育」について語りました。

では学校はその点でどんな位置を占めているでしょうか。何世紀もの昔,ソロモン王は,「経験のない者たちに明敏さを,若者に知識と思考力を与えるため」に箴言を書きました。(箴言 1:1-4)そうです,若者には未経験がつきものです。しかし学校は若者の思考力の育成に役立ちます。思考力とは,事実を暗唱するにとどまらず,それらの事実を分析し,それに基づいて創造性に富んだ考えを生み出す能力のことです。ある学校で行なわれている教え方を批判する人は少なくありませんが,それでも学校は生徒がどうしても頭を使わずにはいられないように仕向けます。なるほど幾何学の問題を解いたり,一連の歴史的年代を暗記したりすることは,当面の生活には直接関係がないように思えるかもしれません。しかし,バーバラ・メイヤーは「高校で生き残るための手引き」の中で次のように書いています。「教師が好んで試験に出すいろいろな事実やちょっとした知識をすべての生徒が全部記憶するわけではないが,学習の仕方や計画の立て方を学ぶ技術は決して忘れないだろう」。

教育が長期にわたって及ぼす影響を研究した3人の大学教授は,これによく似た結論を下しました。「教育のある人は書物から学ぶ事実のみならず,同時代の世界に関する事実についても確かにより広く,より深い知識を持っている。また,さらに知識を探求し,情報を与えるさまざまな資料に親しむようになることが多い。……こうした相違は年を取っても,学校を出てから何年たっても持続することが分かった」―「教育の及ぼす永続的な影響」。

何よりも大切なのは,教育によってクリスチャンの責任を果たすための備えができることです。良い勉強の習慣を身につけ,読書の技術を習得すれば,神の言葉をいっそう容易に学ぶことができます。(詩編 1:2)自分の意見を言い表わすことを学校で学べば,他の人に聖書の真理をいっそう容易に教えることができます。歴史・科学・地理・数学などの知識もやはり有用で,さまざまな背景や関心事,また信条を持つ人々と良い関係を持つうえで役立ちます。

学校と雇用

学校はまた,将来の雇用の見込みに大きな影響を与えます。どうしてそう言えるでしょうか。

賢王ソロモンは仕事に熟練した人について,「その人は王たちの前に立ち,凡庸な人たちの前には立たない」と言いました。(箴言 22:29)今日でもやはり同じことが言えます。米労働省のアーネスト・グリーンは,「技能を身につけていなければ人生の多くの事柄において後れを取る」と言っています。

ですから,学校をやめる人々の就職の見通しが暗いのはもっともなことと言えます。ウォルター(先に挙げた人)はこのことをつらい仕方で学びました。「さまざまな職業に応募しましたが,卒業証書がないために採用されなかったことが幾度もありました」。彼はさらにこう認めました。「時々,人々は僕の知らない言葉を使うことがあり,そういう時には自分が愚か者のように思えます」。

16歳から24歳までの高校中退者の失業率は,「高校を卒業した同年代の仲間の失業率の2倍に近く,全人口の失業率の3倍に近い」のです。(ニューヨーク・タイムズ紙)さらに,著述家のF・フィリップ・ライスはその著書「青年期」の中で,「教育を受けることを中途でやめる人は,機会への門戸を自ら閉じているのである」と述べています。中退者は恐らく,最も簡単な仕事を扱うのに必要な基本的技能を習得していないでしょう。

ポール・コッパーマンはその著書「読み書きの能力に関する作り事」の中で,こう書いています。「最近行なわれた調査の示すところによると,コックの職を保持するには中一程度の読書力が必要であり,機械工の職を保持するには中二程度の読書力,在庫係の職は中三ないし高一程度の読書力が必要である」。コッパーマンはさらにこう述べています。「教師,看護婦,会計係,技師などの職には,最低限これ以上の読書能力を要求されると見るのが妥当だと思う」。

ですから,読解力のような基本的技能を身につけるよう一生懸命に努力する生徒たちの場合に,就職の機会がずっと多くなるのは明らかです。しかし,学校へ行くことから得られる,生涯にわたる益にはほかにどんなものがあるでしょうか。

より優れた人間になれる

生涯にわたるその益とは,自分の長所と短所を知ることです。最近コンピューターの分野で職を得たミシェルは,「学校では,圧迫のもとでの学習の仕方,試験の受け方,自分の意見を言い表わす方法などを学びました」と言いました。

『学校は,失敗をどう見るか,その見方を教えてくれました』と言う若い人もいます。彼女は自分の失敗を,自分ではなく人のせいにする傾向がありました。規律のある学校生活がためになったという人たちもいます。多くの人はこのことで学校を批判し,これが若い人々を息苦しくさせるのだと主張します。しかしソロモンは,『知恵と懲らしめ(規律)を知る』ことを若者に勧めています。(箴言 1:2)実際,規律の行き届いている学校は,規律正しい,それでいて創造性のある人々を多く生み出しています。

したがって,在学期間を最大限に活用するのは十分に道理にかなっています。どうすれば,在学期間を最大限に活用できるでしょうか。学業そのものから始めることにしましょう。

討論のための質問

□ 学校に対して否定的な見方をする若者が非常に多いのはなぜですか。あなたはそのことについてどう思いますか

□ 学校は,思考力の育成にどのように役立ちますか

□ 学校をやめることは,将来の就職能力にどんな影響を及ぼしかねませんか。それはなぜですか

□ 学校にきちんと通えば,さらにどんな個人的益が得られますか

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「ただ座っているだけで,段々ばかみたいになっていくからやめたの」

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「最近行なわれた調査の示すところによると,コックの職を保持するには中一程度の読書力が必要であり,機械工の職を保持するには中二程度の読書力,在庫係の職は中三ないし高一程度の読書力が必要である」

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学校で規律のある生き方を学べば,残りの人生を送るのに役立つ

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学校で教わる基本的技能を習得していない人たちにとって就職の見込みは暗い