私わたしの両りょう親しんはスイスからの移い民みんで，カナダのオンタリオ州しゅうにあるティミンズという鉱こう山ざんの町まちに住すんでいました。私わたしはそこで1934年ねんに生うまれました。1939年ねんごろ，母ははは「ものみの塔とう」誌しを読よむようになり，エホバの証しょう人にんの集しゅう会かいに行いき始はじめました。私わたしを含ふくむ7人にんの子こ供どもたちも連つれていきました。程ほどなくして母はははエホバの証しょう人にんになりました。

父ちちはそのことにいい顔かおをしませんでしたが，母ははは真しん理りを愛あいしていて，真しん理りに従したがって生いきようと決けつ意いしていました。1940年ねん代だい前ぜん半はんにカナダでエホバの証しょう人にんの活かつ動どうが禁きん止しされていた間あいだも，母ははの決けつ意いは変かわりませんでした。父ちちは母ははにひどいことを言いっていましたが，母はははいつも父ちちに優やさしくし，敬けい意いを込こめて接せっしていました。そんな姿すがたを見みて，私わたしたち子こ供どもも真しん理りを受うけ入いれました。うれしいことに，やがて父ちちは態たい度どを和やわらげ，家か族ぞくに優やさしく接せっしてくれるようになりました。

1950年ねんの夏なつ，私わたしはニューヨーク市しで開ひらかれた「拡かく大だいする神しん権けん政せい治じ大たい会かい」に出しゅっ席せきしました。そこで世せ界かい中じゅうから来きた兄きょう弟だい姉し妹まいと会あい，ギレアデ学がっ校こうの卒そつ業ぎょう生せいへのインタビューを聞きいて，エホバにもっと奉ほう仕ししたいという気き持もちが強つよまりました。そして，自じ分ぶんも全ぜん時じ間かん奉ほう仕しをしようと心こころに決きめました。家いえに帰かえってすぐ，正せい規き開かい拓たく奉ほう仕しの申もうし込こみ書しょを出だしました。でも，カナダの支し部ぶ事じ務む所しょからの返へん事じには，まずバプテスマを受うけるようにとありました。私わたしは同おなじ年としの10月がつ1日ついたちにバプテスマを受うけ，その1カ月げつ後ごに正せい規き開かい拓たく者しゃになりました。最さい初しょに割わり当あてられたのは，実じっ家かからだいぶ離はなれた所ところにあった，カプスケーシングという町まちでした。

1951年ねんの春はる，支し部ぶ事じ務む所しょからフランス語ごを話はなせる兄きょう弟だい姉し妹まいに，フランス語ごが使つかわれているケベック州しゅうへの移い動どうを考かんがえるよう呼よび掛かけがありました。ケベック州しゅうではもっと大おお勢ぜいの伝でん道どう者しゃが必ひつ要ようとされていたから です。私わたしはフランス語ごも英えい語ごも話はなせたので，呼よび掛かけに応おうじ，ルーインに行いくことになりました。ルーインに知しり合あいは誰だれもおらず，先さきほども触ふれたように，ある家いえの住じゅう所しょを知しらされていただけでしたが，物もの事ごとは順じゅん調ちょうに進すすみました。マーセルといい友とも達だちになれましたし，その後ごの4年ねん間かん，後こう半はんは特とく別べつ開かい拓たく者しゃとして，ケベックでの奉ほう仕しを楽たのしむことができました。

ケベックにいた頃ころ，驚おどろいたことに，ニューヨーク州しゅうサウスランシングで開ひらかれるギレアデ学がっ校こうの第だい26期きに招しょう待たいされました。卒そつ業ぎょう式しきは1956年ねん2月がつ12日にちでした。私わたしは，西にしアフリカの，今いまではガーナと呼よばれている地ち域いき bに行いくことになりました。でも，ガーナに向むかう前まえにまずカナダに戻もどって，旅りょ行こうに必ひつ要ような書しょ類るいが整ととのうまで数すう週しゅう間かん待まつことになりました。

書しょ類るいが準じゅん備びできるまで，結けっ局きょく7カ月げつかかりました。その間あいだ，私わたしはトロントでクリップス家けに泊とめてもらっていました。私わたしはそこの娘むすめのシーラと親したしくなり，恋こいに落おちました。結けっ婚こんを申もうし込こもうと思おもっていた矢や先さきに，私わたしのビザが下おりました。私わたしたちはよく祈いのり，私わたし1人ひとりで割わり当あてられた場ば所しょに行いくことに決きめました。でも，結けっ婚こんを視し野やに入いれて，やりとりは続つづけることにしました。苦く渋じゅうの決けつ断だんでしたが，後あとになって考かんがえてみると正ただしい決けっ定ていでした。

私わたしは電でん車しゃや貨か物もつ船せんや飛ひ行こう機きを乗のり継ついで，1カ月げつかけてガーナのアクラに行いきました。そこでの割わり当あては地ち域いき監かん督とくとしての奉ほう仕しでした。ガーナ全ぜん体たい，そして近きん隣りんの象ぞう牙げ海かい岸がん（現げん在ざいのコートジボワール）やトーゴランド（現げん在ざいのトーゴ）を回まわる奉ほう仕しです。私わたしは大たい抵てい，支し部ぶから支し給きゅうされた四よん輪りん駆く動どう車しゃに乗のって1人ひとりで移い動どうしました。本ほん当とうに充じゅう実じつした楽たのしい奉ほう仕しでした。

週しゅう末まつは巡じゅん回かい大たい会かいのために働はたらきました。大たい会かいホールがなかったので，兄きょう弟だいたちは竹たけを組くみ，ヤシの葉はを載のせて屋や根ねを作つくり，強つよい日ひ差ざしをしのげるようにしました。冷れい蔵ぞう庫こもなかったので，出しゅっ席せき者しゃのために調ちょう理りする時ときまで，動どう物ぶつを生いかしておきました。

大たい会かいでは面おも白しろいハプニングもありました。ある時とき， 宣せん教きょう者しゃ仲なか間まのハーバート･ジェニングズ兄きょう弟だいが話はなしをしていた間あいだに，食しょく事じスペースから肉にく牛ぎゅうが逃にげ出だしてしまいました。 c その牛うしがステージと聴ちょう衆しゅうの間あいだに飛とび出だしてきたので，ジェニングズ兄きょう弟だいは話はなしをやめました。牛うしは混こん乱らんしている様よう子すでしたが，4人にんのたくましい兄きょう弟だいたちがその牛うしを取とり押おさえ，聴ちょう衆しゅうの喝かっ采さいを浴あびながら連つれ戻もどしました。

大たい会かいの前ぜん後ご，私わたしは近ちかくの村むらに行いって「躍やく進しんする新あたらしい世よの社しゃ会かい」の映えい画がを上じょう映えいしました。2本ほんの柱はしらや木きの間あいだに厚あつ手での白しろい布ぬのを張はってスクリーンにしました。多おおくの人ひとにとって映えい画がを見みるのが初はじめてだったということもあり，村むらの人ひとたちは大おお喜よろこびしました。バプテスマのシーンでは大おおきな拍はく手しゅが湧わき起おこりました。その映えい画がを通とおして，エホバの証しょう人にんが世せ界かい中じゅうにいて，強つよい絆きずなで結むすばれているということを知しってもらうことができました。

アフリカに行いって2年ねんほどがたった頃ころ，私わたしはニューヨーク市しで開ひらかれた1958年ねんの国こく際さい大たい会かいに出しゅっ席せきすることができました。その大たい会かいでシーラと再さい会かいできて本ほん当とうにうれしかったです。シーラは特とく別べつ開かい拓たく者しゃとして奉ほう仕ししていたケベックから来きていました。私わたしたちは手て紙がみでやりとりしていましたが，じかに会あえたその時とき，私わたしはシーラに結けっ婚こんを申もうし込こみ，シーラは受うけ入いれてくれました。ノア兄きょう弟だいに手て紙がみで，シーラがギレアデに行いって私わたしと一いっ緒しょにアフリカで奉ほう仕しできるか尋たずねたところ，兄きょう弟だいは承しょう諾だくしてくださいました。 d その後ご，シーラはやっとガーナに来くることができました。私わたしたちは1959年ねん10月がつ3日かにアクラで結けっ婚こんしました。エホバを第だい一いちにしてきた私わたしたちを，エホバが豊ゆたかに祝しゅく福ふくしてくださっていると感かんじました。

1961年ねんから，私わたしたちはカメルーンという国くにで奉ほう仕しすることになりました。そこで新あたらしい支し部ぶ事じ務む所しょの設せつ立りつを援えん助じょする仕し事ごとを頂いただき，忙いそがしく働はたらきました。私わたしは支し部ぶの僕しもべになったので，学まなばなければならないことがたくさんありました。その後ご1965年ねんに，シーラが妊にん娠しんしていることが分わかりました。親おやになるという実じっ感かんが湧わくまで，正しょう直じきなところ，いくらか時じ間かんがかかりました。でも，その新あらたな責せき任にんが楽たのしみになり，カナダに戻もどる計けい画かくを立たてていた矢や先さきに，非ひ常じょうにつらい経けい験けんをすることになりました。

 残ざん念ねんなことに流りゅう産ざんだったのです。医い師しからは，生うまれるはずだったのは男おとこの子こだったと知しらされました。それから50年ねん以い上じょうがたちますが，その時ときのことは決けっして忘わすれられません。本ほん当とうに悲かなしい出で来き事ごとでしたが，私わたしたちはカメルーンでの奉ほう仕しを続つづけました。その奉ほう仕しを心こころから愛あいしていたからです。

カメルーンの兄きょう弟だいたちは，政せい治じにおいて中ちゅう立りつの立たち場ばを取とっているためにひどい目めに遭あうことがよくありました。大だい統とう領りょう選せん挙きょの時じ期きは特とくに大たい変へんでした。1970年ねん5月がつ13日にち，心しん配ぱいしていたことが起おきました。エホバの証しょう人にんの活かつ動どうが禁きん止しされたのです。5カ月げつ前まえに使つかい始はじめたばかりの美うつくしい支し部ぶ施し設せつは，政せい府ふに差さし押おさえられてしまいました。それから1週しゅう間かんのうちに，宣せん教きょう者しゃが全ぜん員いん国こく外がい退たい去きょになりました。私わたしとシーラもです。カメルーンの兄きょう弟だい姉し妹まいを本ほん当とうに大たい切せつに思おもっていましたし，兄きょう弟だい姉し妹まいがこれからどんな目めに遭あうか心しん配ぱいだったので，後うしろ髪がみを引ひかれる思おもいでした。

その後ごの6カ月げつ間かん，私わたしたちはフランスの支し部ぶ事じ務む所しょにいました。私わたしはそこで，カメルーンの兄きょう弟だいたちをサポートする仕し事ごとを続つづけ，できることは何なんでもしました。その年としの12月がつ，私わたしたちは，カメルーンでの活かつ動どうを見み守まもることになったナイジェリア支し部ぶに遣つかわされました。ナイジェリアの兄きょう弟だい姉し妹まいに温あたたかく迎むかえていただき，私わたしたちはそこでの奉ほう仕しを数すう年ねん間かん楽たのしみました。

1973年ねん，難むずかしい決けっ定ていを迫せまられました。シーラはしばらく深しん刻こくな健けん康こう上じょうの問もん題だいと闘たたかっていて，大たい会かいのためニューヨークに滞たい在ざいしていた時とき，泣なき崩くずれてこう言いいました。「もう無む理り。ずっと具ぐ合あいが悪わるくて，力ちからが出でない」。シーラはそれまで14年ねん以い上じょう，西にしアフリカで私わたしと一いっ緒しょに頑がん張ばってきてくれました。本ほん当とうによくやっていました。でも，いくらか調ちょう整せいが必ひつ要ようでした。そのことについて話はなし合あい，長ながい熱ねつ烈れつな祈いのりを捧ささげた後あと，シーラが体たい調ちょうを整ととのえられるようにカナダに戻もどることに決きめました。宣せん教きょう者しゃ奉ほう仕しをやめて全ぜん時じ間かん奉ほう仕しも中ちゅう断だんするというのは，それまでで一いち番ばん難むずかしい決けっ定ていで，胸むねが締しめ付つけられるような思おもいをしました。

カナダに戻もどってから，私わたしはトロントの北きたにある町まちでカーディーラーを営いとなんでいた昔むかしからの友とも達だちの所ところで働はたらかせてもらいました。私わたしたちはアパートを借かり，家か具ぐは中ちゅう古こでそろえ，負ふ債さいを抱かかえることなく新しん生せい活かつを始はじめることができました。いつかまた全ぜん時じ間かん奉ほう仕しをしたいと思おもっていたので，シンプルな生せい活かつを心こころ掛がけました。驚おどろいたことに，思おもっていたより早はやく全ぜん時じ間かん奉ほう仕しを再さい開かいすることができました。

私わたしは土ど曜よう日びにオンタリオ州しゅうノーバルで新あたらしい大たい会かいホールの建けん設せつに参さん加かするようになりました。その後ご，大たい会かいホール監かん督とくとして奉ほう仕しする割わり当あてを頂いただきました。シーラの体たい調ちょうが回かい復ふくしてきていたので，私わたしたちはその新あたらしい割わり当あてを受うけ入いれても大だい丈じょう夫ぶだと思おもいました。それで1974年ねん6月がつに大たい会かいホールの宿しゅく舎しゃに引ひっ越こしました。全ぜん時じ間かん奉ほう仕しを再さい開かいできて本ほん当とうにうれしかったです。

ありがたいことに，シーラの体たい調ちょうはその後ごも良よくなっていきました。2年ねん後ごには巡じゅん回かい奉ほう仕しの割わり当あてを 受うけ入いれられるほどになりました。私わたしたちはマニトバ州しゅうの巡じゅん回かい区くを回まわることになりました。カナダの中なかでも，冬ふゆの寒さむさが特とくに厳きびしいことで知しられる地ち域いきです。でも，そこの兄きょう弟だい姉し妹まいはみんな温あたたかく，一いっ緒しょにとても良よい時じ間かんを過すごすことができました。私わたしたちは，どこで奉ほう仕しするかはそれほど重じゅう要ようではないということを学まなびました。大たい切せつなのは，どこであろうとエホバに仕つかえ続つづけることなのです。

巡じゅん回かい奉ほう仕しを何なん年ねんかした後あとの1978年ねん，私わたしたちはカナダのベテルで奉ほう仕しするよう招しょう待たいされました。それからあまりたたないうちに，私わたしは苦にがい経けい験けんを通とおして大たい切せつな教きょう訓くんを学まなびました。モントリオールで開ひらかれた特とく別べつな集あつまりで，1時じ間かん半はんの話はなしをフランス語ごでしたのですが，残ざん念ねんながら聴ちょう衆しゅうを引ひき付つけておくことができず，奉ほう仕し部ぶ門もんの兄きょう弟だいからアドバイスされました。その時ときはまだ，自じ分ぶんは話はなしがあまり上じょう手ずではないということを自じ覚かくできていませんでした。それで助じょ言げんを素す直なおに受うけ止とめることができませんでした。兄きょう弟だいとは考かんがえ方かたが合あわないように感かんじ，兄きょう弟だいは批ひ判はん的てき過すぎて全ぜん然ぜん褒ほめてくれないと思おもいました。その兄きょう弟だい自じ身しんや助じょ言げんの仕し方かたに対たいする感かん情じょうが邪じゃ魔まをして，助じょ言げんを軽かるく見みるという間ま違ちがいを犯おかしてしまったのです。

数すう日じつ後ご，支し部ぶ委い員いんの兄きょう弟だいからその件けんについて話はなしがありました。私わたしは，助じょ言げんに対たいする反はん応のうが良よくなかったことを認みとめ，後こう悔かいしていることを伝つたえました。それから，助じょ言げんしてくれた兄きょう弟だいと話はなし，自じ分ぶんの態たい度どが悪わるかったことを謝あやまりました。兄きょう弟だいは快こころよく許ゆるしてくれました。この出で来き事ごとから謙けん遜そんであることの大たい切せつさを学まなび，それは忘わすれられない教きょう訓くんになりました。（格かく 16:18）その時ときのことについてエホバに何なん度ども祈いのってきましたし，もう決けっして助じょ言げんに反はん発ぱつしたりしないと心こころに決きめています。

これまで40年ねん以い上じょうカナダのベテルにいて，1985年ねん以い降こうは支し部ぶ委い員いん会かいで奉ほう仕ししています。2021年ねんの2月がつ，愛あいするシーラが死しの眠ねむりに就つきました。その悲かなしみは大おおきいものですし，今いまでは自じ分ぶん自じ身しんも健けん康こう上じょうの問もん題だいを抱かかえています。でもエホバへの奉ほう仕しで忙いそがしくしていられるので，「日ひ々びが過すぎていくことをあまり気きに留とめ」ずにいられて幸しあわせです。（伝でん 5:20）自じ分ぶんの人じん生せいを振ふり返かえると，大たい変へんなこともありましたが，それ以い上じょうに多おおくの喜よろこびを味あじわってきました。エホバを第だい一いちにし，全ぜん時じ間かん奉ほう仕しを70年ねん行おこない，本ほん当とうに幸しあわせな人じん生せいを送おくることができています。若わかい兄きょう弟だい姉し妹まいが同おなじようにエホバを第だい一いちにしていけるよう祈いのっています。エホバに仕つかえることこそ，最さい高こうに幸しあわせで充じゅう実じつした生いき方かただからです。