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有用ながら,とらえ難い数

有用ながら,とらえ難い数

有用ながら,とらえ難い数

メキシコの「目ざめよ!」通信員

数学,物理学,工学,さらには日常の生活においても,円周率(π<パイ>)ほどに注目を浴びてきた数は多くありません。「教室でのフラクタル」(英語)という本は,円周率は「世界の科学界の大御所や愛好家を魅了してきた」としています。実際,円周率は数学においてきわめて重要な五つの数の一つであると考える人もいます。

円周率とは,円周とその直径との比です。円の直径に円周率を掛ければ,その大きさに関係なく,どんな円周の長さも求めることができます。1706年,英国の数学者ウィリアム・ジョーンズは,この比を表わすのに,初めてギリシャ文字のπを使いました。しかし,それが一般に用いられるようになったのは,スイスの数学者レオンハルト・オイラーが1737年にこの記号を採用してからです。

円周率として3.14159という数値を当てれば,たいていの場合にじゅうぶん正確な値になります。しかし,円周率を厳密に計算し尽くすことはできません。なぜでしょうか。円周率は無理数,つまり通常の分数で表わせない数だからです。小数で表わせば,その数は延々と続きます。実際,小数点以下の桁は無限に求めることができます。にもかかわらず,数学者たちは,円周率の小数点以下の値を求めて,果てしなく単調な作業を続けてきました。

円の大きさにかかわりなく円周率が常に一定であることを,だれが最初に見つけたかは分かりません。しかし,このとらえ難い数の正確な値を求める試みは,ずっと昔から行なわれてきました。バビロニア人は,円周率の近似値を3 1/8(3.125)とし,エジプト人は,正確さの点でやや及びませんでしたが,約3.16としていました。西暦前3世紀には,ギリシャの数学者アルキメデスが,恐らく初めて科学的な手法で計算し,約3.14という値を導き出しました。西暦200年までに,その値は3.1416であることが分かりました。それは,6世紀前半までに中国とインドの数学者がそれぞれ独自に証明したのと同じ値です。現在では,高性能コンピューターによって,円周率を小数点以下数百億桁まで求めることができます。しかし,「教室でのフラクタル」も述べるとおり,円周率がいかに有用でも,「それを20桁以上も必要とする科学上の計算はほとんど」ありません。

円周率は様々な分野で用いられる公式の中に見られます。物理,電気および電子工学,確率,構造設計,航空工学などは,その例です。円周率の小数点以下に限りがないように,この有用ながらとらえ難い数の実際的用途にも,限りがないようです。