エネルギー開発にどんな進展があるか
エネルギー開発にどんな進展があるか
風:
■ 人類は昔から風の力を利用して,帆船を進ませ,製粉機を回し,水を汲み上げてきました。しかし,近年,世界中で風力に対する強い関心が急速に広がっています。現在,ハイテク式の風車が世界各地で相当量の無公害かつ再生可能なエネルギーを生み出し,3,500万人に電力を供給しています。デンマークはすでに風力だけで国内の電力の20%を作り出しています。ドイツ,スペイン,インドでも風力発電がどんどん採用されています。中でもインドは世界で5番目に風力発電化が進んでいるとのことです。米国では現在,1万3,000基の風車により発電が行なわれています。また,もし米国内で風力発電に適した場所すべてが開発されれば,現在必要とされる電力の20%をその方法で賄えるとする専門家もいます。
太陽:
■ 太陽電池は,太陽光線により電池内の電子を励起させて,太陽の光を電気に変えます。この方法により,世界各地で5億㍗近い電力が生み出されており,太陽電池の市場は年間30%の割合で成長しています。しかし,現在のところ太陽電池はまだ効率が悪く,化石燃料で電気を作るよりも費用がかさみます。さらに,太陽電池の製造には硫化カドミウムやガリウムヒ素などの有毒化学物質が使用されています。そのような化学物質は自然環境に何世紀も残留するので,「不用になった電池に使われているそれらの物質の廃棄と再利用は大きな問題になるだろう」とバイオサイエンス誌は述べています。
地熱エネルギー:
■ 地殻に穴を掘り,摂氏4,000度あるとされる高温の核まで掘り進むとすれば,1㌔進むごとに平均約30度ずつ温度が上昇します。とはいえ,温泉や火山の割れ目の近くに住んでいれば,地熱は利用しやすいことになります。地熱を得やすい場所で作られる熱水や水蒸気は,58の国で住宅の暖房や発電に使用されています。アイスランドでは,地熱を利用して国内のエネルギー需要の約半分を賄っています。オーストラリアなどでは,地表からわずか数キロ下に横たわる高温の乾燥した岩盤に閉じ込められているエネルギーを利用することが考えられています。オーストラリアン・ジオグラフィック誌はこう伝えています。「一部の研究者たちは,熱が閉じ込められている所に水を送り込み,その水が熱水となって超高圧で地表に戻ってくるのを利用してタービンを回せば,何十年,いや何百年も電力を発生させることができると考えている」。
水:
■ 水力発電所はすでに世界が必要とするエネルギーの6%余りを供給しています。「IEO2003」報告書によると,今後20年間,「再生可能なエネルギー源における成長の大部分は,発展途上国,特にアジアの発展途上諸国での大規模な水力発電計画によってもたらされる」ことになります。とはいえ,バイオサイエンス誌はこう警告しています。「貯水池は往々にして,価値ある,農業生産性の高い沖積層低地を水没させる。その上,ダムは動植物や微生物の生態系を変えてしまう」。
水素:
■ 水素は無色無臭の可燃性ガスで,宇宙に最も豊富に存在する元素です。地球で,水素は動植物の細胞組織に不可欠の要素であり,化石燃料の成分,また水を構成する2種類の元素の一つでもあります。さらに,水素は化石燃料よりもクリーンで効率のよい燃料です。
「サイエンス・ニューズ・オンライン」(英語)は,水を「電気分解すれば水素と酸素が得られる」と述べ,この方法だと水素をいくらでも作ることができますが,「この一見,簡単に見える製法も今のところ経済的ではない」としています。世界各地の工場ではすでに約4,500万㌧の水素が生産されており,主に肥料や洗浄剤に使われています。しかし,この水素を抽出する過程には化石燃料が関係しています。その過程で,有毒な一酸化炭素ガスや温室効果ガスの二酸化炭素も放出されます。
それでも,多くの人は水素を最も有望な代替燃料とみなし,それによって人類の将来のエネルギー需要を満たすことができると考えています。この楽観的な考え方は,燃料電池として知られる装置が近年,劇的に改良されたことに基づいています。
燃料電池:
■ 燃料電池は水素から電気を作り出す装置です。と言っても,水素を燃やすのではなく,一定の制御下で酸素と結合させるのです。水素を多く含む化石燃料ではなく,純粋な水素を使うなら,その結果として生じる副産物は熱と水だけです。
1839年,英国の判事で物理学者でもあったウィリアム・グローブ卿が最初の燃料電池を作りました。とはいえ,燃料電池は製造に費用がかかり,燃料と部品を入手するのも容易ではなかったので,20世紀半ばまで実用化に向けた開発は進みませんでした。折しもアメリカの宇宙船の燃料用に燃料電池が開発されました。最近の宇宙船も船内の電力供給に燃料電池を使用していますが,現在では地上でも使用できるように技術が改良されています。
最近では,自動車の内燃機関に代わるものとして,商業ビルや住宅への電力供給手段として,また携帯電話やコンピューターなど小型の電子機器の動力源として燃料電池の開発が進められています。とはいえ,この記事を書いている時点で,据え置き型燃料電池プラントでの発電コストは,化石燃料の場合の4倍もかかります。それでも,この未来技術の開発のために多大の資金が投入されています。
もっとクリーンなエネルギー源を導入できれば,環境に益が及ぶことは明らかです。とはいえ,大規模な導入にかかるコストは依然として相当高いものとなるでしょう。「IEO2003」報告書はこう述べています。「将来のエネルギー需要の増大はおおむね,……化石燃料(石油,天然ガス,石炭)に対するものと予測される。なぜなら,化石燃料の価格は今後も比較的安価に保たれ,他を原料とするエネルギーはコスト面で競合できないと見込まれているからである」。
[9ページの図版]
燃料電池自動車,2004年
[クレジット]
Mercedes-Benz USA
[8ページの図版のクレジット]
DOE Photo