研究記事 37

81番の歌 「わたしたちにさらに信仰をお与えください」

終わりまで忍耐し続ける助けになる手紙

終わりまで忍耐し続ける助けになる手紙

「初めに抱いた確を終わりまでしっかり持ち続ける」。ヘブライ 3:14

ポイント

今の体制の終わりまで忍耐し続ける助けになることを「ヘブライ人のクリスチャンへの手紙」から学びます。

1-2. (ア)使徒パウロが「ヘブライ人のクリスチャンへの手紙」を書いた時,ユダヤのクリスチャンはどのような状況でしたか。(イ)その手紙がちょうど良い時に書かれたといえるのはどうしてですか。

 イエスが亡くなった後,エルサレムとユダヤに住んでいたヘブライ人のクリスチャンたちはいろいろと大変な経験をしました。クリスチャン会衆が設立された後すぐに激しい迫害が始まりました。(使徒 8:1)さらに,約20年後には経済的に厳しい状況が生じました。恐らく,それまでに起きていた飢饉が原因だったと思われます。(使徒 11:27-30)でも西暦61年ごろからしばらくの間,比較的平和な時期が続きます。当時のクリスチャンはこの時期に,パウロから手紙を受け取りました。聖なる力に導かれて書かれたその手紙はとてもタイムリーなものでした。

2 当時のクリスチャンが経験していた平和な時期はずっと続くわけではありませんでした。それで,「ヘブライ人のクリスチャンへの手紙」はちょうど良い時に書かれたといえます。パウロが与えたアドバイスは,間もなく経験することになっていた患難を忍耐する上で役立つものでした。イエスが予告していたように,ユダヤ人の体制の終わりが近づいていたからです。(ルカ 21:20)もちろん,パウロもユダヤのクリスチャンもそれがいつ起きるのか,はっきりとは知りませんでした。でも当時の人たちは,残された時間を活用し,これから起きる患難に備えて信仰や忍耐力を強めることができました。(ヘブ 10:25; 12:1,2

3. 今私たちがこの手紙に注目するといいのはどうしてですか。

3 私たちはヘブライ人のクリスチャンたちよりもさらに大きな患難に直面することになります。(マタ 24:21。啓 16:14,16)当時のクリスチャンに与えられたアドバイスは私たちのためにもなります。その幾つかを考えてみましょう。

「十分に成長するように努力しましょう」

4. ユダヤ人のクリスチャンは,どんな壁を乗り越える必要がありましたか。(挿絵も参照。)

4 ユダヤ教の背景を持つクリスチャンたちには乗り越えなければいけない壁がありました。以前,ユダヤ人はエホバから選ばれた国民でした。エルサレムは長い間とても重要な場所でした。そこから治める王は,エホバの代理として統治していました。神殿は清い崇拝の中心地でした。忠実なユダヤ人はモーセの律法や宗教指導者たちが決めた規則に従っていました。そうした教えには,食事,割礼に対する見方,異国人との接し方に関するものもありました。しかし,イエスが死んだ後,モーセの律法は無効になり,神殿で犠牲を捧げる必要はなくなりました。律法に従ってきたユダヤ人のクリスチャンにとって,これはとても大きな変化でした。(ヘブ 10:1,4,10)ペテロのようにクリスチャンとして十分に成長した人でも,こうした変化に順応するのを難しく感じることがありました。(使徒 10:9-14。ガラ 2:11-14)これまでとは違う新しい教えを信じるようになった当時のクリスチャンは,ユダヤ人の宗教指導者たちから攻撃されました。

クリスチャンは,ユダヤ教の反対者たちの間違った考え方を避け,真理にしっかり従う必要があった。(4-5節を参照。)


5. クリスチャンはどんな圧力にさらされていましたか。

5 ヘブライ人のクリスチャンたちはいろいろな人から圧力を受けました。例えば,ユダヤ人の宗教指導者たちからは背教者呼ばわりされました。また,自分はクリスチャンだと言う人たちの中にも,モーセの律法に従い続けるべきだと主張する人がいました。もしかすると,迫害を避けるためにそう言っていたのかもしれません。(ガラ 6:12)このような状況でクリスチャンが真理にしっかり従うために,どんなことが助けになったでしょうか。

6. パウロは仲間の兄弟姉妹にどんなことを勧めましたか。(ヘブライ 5:14–6:1

6 パウロはヘブライ人のクリスチャンに宛てた手紙の中で,神の言葉をより深く掘り下げて学ぶよう勧めました。ヘブライ 5:14–6:1を読む。)また,ヘブライ語聖書から,クリスチャンの崇拝がユダヤ教よりも優れていることを兄弟たちに説明しました。 a パウロは,間違った考えを見極めて避け,真理から離れないようにする上で,真理に対する知識や理解を深めることが役に立つということを知っていました。

7. 私たちはどんな難しい状況に直面していますか。

7 ヘブライ人のクリスチャンのように,私たちもエホバの正しい基準に沿わない情報や考え方にさらされています。反対者たちは,聖書に基づく道徳基準は厳し過ぎるとか,冷た過ぎると非難します。この世界の人々の態度や意見は,エホバの完全な見方からますます懸け離れたものになっています。(格 17:15)それで,間違った考えをしっかりと見極めて避けられるよう自分を強化することがどうしても必要です。反対者たちは,そうした考えを使って私たちを気落ちさせたり真理から離れさせようとしたりするからです。(ヘブ 13:9

8. どうすればクリスチャンとして成長し続けることができますか。

8 パウロは,当時の人たちにクリスチャンとして十分に成長するように勧めました。このアドバイスは私たちにも役立ちます。成長を続けるには,真理に対する知識を深め,自分の考えをエホバの考えに合わせる必要があります。そのことを献身とバプテスマの後も続けます。どれほど長くエホバに仕えているとしても,聖書を毎日読んで学ぶことはとても大切です。(詩 1:2)個人研究の良い習慣は信仰を強める助けになります。パウロもヘブライ人に宛てた手紙の中で信仰の大切さを強調しました。(ヘブ 11:1,6

「信仰を抱いて生き続ける」

9. ヘブライ人のクリスチャンにとって強い信仰が欠かせなかったのはどうしてですか。

9 ユダヤにいるヘブライ人のクリスチャンが近づく患難を生き残るためには,強い信仰が必要でした。(ヘブ 10:37-39)イエスは弟子たちに,エルサレムが陣営を張った軍隊に囲まれるのを見たなら山に逃げるようにと言っていました。エルサレムの町の中に住んでいたクリスチャンも,ユダヤの田舎に住んでいたクリスチャンも,皆逃げなければいけませんでした。(ルカ 21:20-24)当時の人たちは大抵,軍隊が攻めてくると聞くと,エルサレムのように城壁のある町に避難しました。それで,山に逃げるようにという指示は普通ではあり得ないものに思えたことでしょう。それに従うには大きな信仰が要りました。

10. 強い信仰を持つクリスチャンはどう行動したはずですか。(ヘブライ 13:17

10 ヘブライ人のクリスチャンは,イエスから会衆を導く責任を委ねられていた人たちを信頼する必要もありました。教え導く責任を委ねられた人たちは,山に逃げるようにというイエスの命令に,会衆のみんなが適切なタイミングで秩序正しく従えるように具体的な指示を与えたと思われます。ヘブライ 13:17を読む。)ヘブライ 13章17節で使われている「従う」という意味のギリシャ語は,指示を与えている人のことを信頼しているので納得して従う,という考えを含んでいます。それは,単に権威を与えられている人からの指示なので従う,ということではありません。ですから,ヘブライ人のクリスチャンたちは患難を経験するに,教え導いている人たちへの信頼を強めておく必要がありました。平和な時期に教え導いている人たちの指示に従順に従っていたクリスチャンは,大変な時期にも従いやすく感じたことでしょう。

11. 私たちにとって強い信仰が必要なのはどうしてですか。

11 パウロの手紙を受け取った人たちと同じように,私たちにも信仰が必要です。多くの人は今の体制の終わりについての聖書の警告に聞く耳を持ちません。ばかにすることさえあります。(ペテ二 3:3,4)また,私たちは聖書から大患難の時期に起きることについていろいろ知ることができるとはいえ,分からないこともたくさんあります。それで,終わりが時間通りに来ることやエホバがずっと世話してくださることへの強い信仰を持つ必要があります。(ハバ 2:3

12. 大患難を生き残るために,今どうすることは大切ですか。

12 私たちは,エホバが「忠実で思慮深い奴隷」を通して導いてくださっていることへの信仰を強める必要もあります。(マタ 24:45)ローマ軍がエルサレムを囲んだ時,ヘブライ人のクリスチャンたちは生き残るための具体的な指示を与えられたと考えられます。大患難が始まる時も,同じように指示が与えられるでしょう。それで,エホバが責任を委ねている人たちからの指示に対する信頼や確信を今強める必要があります。そうした指示に従うことを今難しく感じているなら,大患難の時に従うのはもっと難しくなるでしょう。

13. ヘブライ 13章5節にあるアドバイスが必要だったのはどうしてですか。

13 逃げるべきタイミングを待っている間,ヘブライ人のクリスチャンたちは「お金を愛するような生き方」をしたりせず,シンプルな生活を送る必要もありました。ヘブライ 13:5を読む。)ある人たちは飢饉や貧しい生活を経験したことがありました。(ヘブ 10:32-34)良い知らせのために大変なことも進んで忍耐していたのに,やがて安心を求めてお金に頼るようになった人もいたのかもしれません。でも,エルサレムが滅ぼされた時,お金は何の役にも立ちませんでした。(ヤコ 5:3)かえって,お金を愛している人ほど家や持ち物を捨てて逃げるのは難しかったことでしょう。

14. 強い信仰があれば,お金や物についてどんな決定をしますか。

14 今の体制の終わりがすぐそこまで来ていることに強い信仰を持っているなら,お金や物を愛する考え方を避けたいと思うでしょう。大患難の時,お金には何の価値もありません。聖書には次のように予告されています。「人々は自分たちの銀を通りに投げ捨て[る]。その銀も金も,エホバの激怒の日に彼らを救うことはできない」。(エゼ 7:19)お金を稼ぐことを重視するのではなく,バランスを取りつつもシンプルな生活ができるような決定をしましょう。これには,不必要な負債を抱えたり,いろいろな物の管理にたくさんの時間を取られたりしないようにすることが含まれます。持っている物に執着しないようにも気を付けましょう。(マタ 6:19,24)今の体制の終わりが近づくにつれ,エホバに頼るか物に頼るか試されることになります。

「皆さんには忍耐が必要です」

15. ヘブライ人のクリスチャンが特に忍耐する必要があったのはどうしてですか。

15 ユダヤの状況が悪化するにつれて,ヘブライ人のクリスチャンは信仰を試されることになりました。(ヘブ 10:36)すでに激しい迫害を経験していた人たちもいましたが,多くの人たちは比較的平和な時期になってからクリスチャンになりました。パウロが言ったように,その人たちは信仰の試練を耐えてきましたが,それは死ぬまで忠実だったイエスが経験したほどのものではありませんでした。(ヘブ 12:4)でもキリスト教が広まるにつれ,ユダヤ人たちからの反対はますます厳しく過激なものになっていました。パウロがこの手紙を書く数年前にエルサレムに行った時,暴動が起きました。また,40人以上のユダヤ人が「パウロを殺すまでは食べたり飲んだりしないと誓」いました。(使徒 22:22; 23:12-14)このように当時のクリスチャンはいろいろな人から憎まれ,過激な反対を受けました。そんな中で,崇拝のために集まり,良い知らせを伝え,強い信仰を持ち続ける必要がありました。

16. 「ヘブライ人のクリスチャンへの手紙」は,迫害に対する正しい見方を持つ上でどのように助けになりますか。(ヘブライ 12:7

16 ヘブライ人のクリスチャンにとって,反対を忍耐するのに何が助けになったでしょうか。パウロは試練に対する正しい見方を持つことの大切さをよく知っていました。それで,神はクリスチャンが経験する試練を訓練の一部として許すことがある,と説明しました。ヘブライ 12:7を読む。)そうした訓練によって,クリスチャンとしての人格を身に着けたり,さらに磨いたりすることができます。そのような良い結果に目を向けることは,ヘブライ人のクリスチャンが試練を忍耐する助けになったことでしょう。(ヘブ 12:11

17. パウロは,迫害を忍耐するためにどんなことを勧めましたか。

17 パウロはヘブライ人のクリスチャンに,試練に備えて今こそ忍耐する決意を強めるよう励ましました。パウロが書いた言葉には説得力がありました。以前は自分も迫害する側だったので,クリスチャンがどんな目に遭うかを知っていました。また,パウロは迫害をどうすれば忍耐できるかも知っていました。パウロ自身,クリスチャンになってからいろいろな反対を経験しました。(コリ二 11:23-25)それで,忍耐するために何が必要なのかを確信を持って語ることができました。パウロはヘブライ人のクリスチャンたちに,試練に遭う時,自分自身ではなくエホバを信頼するよう勧めました。パウロもそうやって勇気を得ていたので,「エホバは私を助けてくださる。私は恐れない」と言うことができました。(ヘブ 13:6

18. 将来,私たちは皆どんなことを経験しますか。今どんなことをする必要がありますか。

18 今でも迫害を忍耐している兄弟姉妹がいます。私たちはその兄弟姉妹のために祈ったり,助けになることを実際に行ったりして支えることができます。(ヘブ 10:33)しかし,聖書にはっきり書かれている通り,「神への専心を貫き,キリスト・イエスに従って生きようとする人は皆,同じように迫害を受けます」。(テモ二 3:12)ですから,私たちこれから起きることに備えておく必要があります。今後どんな試練に遭うとしても,エホバは私たちが忍耐できるよう必ず助けてくださいます。そのことを確信し,引き続きエホバを信頼しましょう。エホバはご自分に仕える人たちを助け出すために行動してくださいます。(テサ二 1:7,8

19. 大患難に備えるためにどんなことが役立ちますか。(挿絵も参照。)

19 パウロがヘブライ人のクリスチャンに宛てて書いた手紙は,1世紀の兄弟たちが患難に備えるのに確かに役立ちました。パウロは,神の言葉を注意深く研究してより深い知識と理解を得るよう兄弟たちに勧めました。このアドバイスは,当時のクリスチャンが信仰を弱める考えを見極めて避ける上で役立ったことでしょう。パウロは,イエスと会衆で教え導いている人たちの指示にすぐに従うことができるよう信仰を強めることの大切さも教えました。そして,試練に遭った時,それを愛情深いお父さんの訓練と見て試練に対して正しい見方を持ち,忍耐できるように助けました。私たちもこうしたエホバからのアドバイスの通りにしていきましょう。そうするなら,終わりまで忍耐し続けることができるのです。(ヘブ 3:14

エホバは忍耐した忠実なクリスチャンたちに報いを与えた。クリスチャンたちはユダヤから逃げた後も集まり続けた。私たちはどんな教訓を学べるか。(19節を参照。)

43番の歌 目ざめて,しっかり立ち,力強い者となりなさい

a パウロは,手紙の最初の章だけでも少なくとも7回ヘブライ語聖書から引用し,クリスチャンの崇拝がユダヤ教よりも優れていることをはっきりと示しました。(ヘブ 1:5-13