神の言葉の生きた翻訳
「神の言葉は生きてい[る]」。―ヘブ 4:12。
1. (イ)神はアダムにどんな仕事をお与えになりましたか。(ロ)その時以来,神の民はどのように言語能力を用いてきましたか。
エホバ神は人間にコミュニケーション能力という贈り物を授けてくださいました。そして,エデンの園に住まわせたアダムに,言語を用いる仕事をお与えになりました。動物に名前を付けるという仕事です。アダムは知力と創造性を働かせて,それぞれの動物に適切な名前を付けました。(創 2:19,20)その時以来,神の民は,話す能力つまり言語能力を用いてエホバを賛美し,ご意志を人々に知らせてきました。近年,言語を使って清い崇拝を推し進めるうえで,聖書翻訳が大きな役割を果たしています。
2. (イ)新世界訳聖書翻訳委員会は,翻訳に当たってどんな基本原則に従いましたか。(ロ)この記事ではどんなことを考えますか。
2 聖書翻訳は何千もありますが,原文のメッセージに対する忠実さのレベルは様々です。1940年代に新世界訳聖書翻訳委員会は翻訳に関する次のような基本原則を定め,その原則に従って130以上の言語で翻訳が行なわれてきました。(1)神のみ名を聖書中の正当な箇所に復元することによって,その名を神聖なものとする。(マタイ 6:9を読む。)(2)霊感による原文のメッセージを可能な限り字義的に翻訳するが,逐語的な訳で意味合いが変わってしまう場合は,正確な意味を伝える。(3)読む意欲を起こさせる,理解しやすい言葉を用いる。 * (ネヘミヤ 8:8,12を読む。)では,2013年改訂版を含む「新世界訳」にそれらの原則がどのように適用されているか,見てみましょう。
神のみ名を尊ぶ
3,4. (イ)テトラグラマトンは古代のどんな写本に出てきますか。(ロ)多くの聖書翻訳は,神のみ名をどのように扱っていますか。
3 死海写本など,古代ヘブライ語の聖書写本を研究する人たちは,テトラグラマトン(神のみ名を表わす4つのヘブライ語文字)が非常に多く出ていることに気づきます。神のみ名はそうした古代のヘブライ語写本だけではなく,ギリシャ語セプトゥアギンタ訳の西暦前2世紀から西暦1世紀の写本にも出てきます。
4 神の固有の名が聖書に出ていることは明らかですが,多くの翻訳は聖なるみ名を完全に省いています。「クリスチャン・ギリシャ語聖書 新世界訳」が発表された1950年のわずか2年後に刊行された「改訂標準訳」(英語)もその一つです。この訳は,1901年の「アメリカ標準訳」(英語)の編集者の方針を覆し,み名を省きました。なぜでしょうか。序文にはこう記されています。「唯一の神を……何らかの固有名詞を用いて表わすことは……キリスト教会の普遍的な信仰にとっても全くふさわしくない」。その後に出版された英語や他の言語による多くの翻訳が,これに倣っています。
5. 聖書に神のみ名を残すことが大切なのは,なぜですか。
5 神のみ名を残すか省くかが重要な問題なのは,なぜですか。熟練した翻訳者たちは,著者の意図を理解しなければならないことを知っています。その理解が,翻訳上の判断にしばしば影響を及ぼすからです。数え切れないほど多くの聖句が,神のみ名と,その名を神聖なものとすることの大切さを示しています。(出 3:15。詩 83:18; 148:13。イザ 42:8; 43:10。ヨハ 17:6,26。使徒 15:14)聖書の著者エホバ神は,筆者たちに霊感を与え,み名を頻繁に用いるようにさせました。(エゼキエル 38:23を読む。)古代写本に何千回も出てくるみ名を省くのは,著者に対する不敬と言えるでしょう。
6. 改訂版「新世界訳」に神の名が6回多く出ているのはなぜですか。
6 聖書に神の名を残すべきであることの証拠は,減るどころか増えています。「新世界訳聖書」2013年改訂版には,み名が7216回出てきます。1984年版より6回多くなっています。そのうちの5つは,サムエル第一 2章25節,6章3節,10章26節,23章14,16節にあります。これらが復元されたのは主に,ヘブライ語のマソラ本文より1000年以上古い死海写本のそれらの聖句に,み名が出ているからです。もう1か所は裁き人 19章18節で,古代写本の研究が進んだ結果,復元されました。
7,8. 「彼はならせる」を意味する神の名が重要なのは,なぜですか。
7 真のクリスチャンにとって,エホバのみ名は非常に重要です。「新世界訳聖書」2013年改訂版の付録には,その点に関する最新情報が含まれています。新世界訳聖書翻訳委員会は,エホバという名がヘブライ語動詞ハーワーの使役形で,「彼はならせる」を意味する,と理解しています。 * わたしたちの出版物はかつて,この意味を,出エジプト記 3章14節の「わたしは自分がなるところのものとなる」という言葉と関連づけていました。そのため1984年版では,この名は,神が「ご自身を,約束を成就する者……とならせる方」であることを意味する,とされていました。 * しかし,2013年改訂版の付録A4は,こう説明しています。「エホバという名にはそうした概念が含まれていると考えられますが,ご自身が何らかのものになることに限定されてはいません。被造物をあるものにならせたり,ご自分の目的を達成するために何らかの事態を生じさせたりすることも含まれるのです」。―「神の言葉の研究ガイド」5ページを参照。
8 エホバは,ご自分が創造したものを,ご自分の望むものにならせるのです。み名が意味しているとおり,神はノアを箱船建造者にならせ,ベザレルを名工に,ギデオンを勇敢な戦士に,パウロを諸国民への使徒にならせました。ですから,神の名は神の民にとって大きな意味があります。新世界訳聖書翻訳委員会は,聖書から神の名を省いてみ名の重要性を損なうことは断じて避けたい,と考えています。
9. 聖書の翻訳が優先事項とされているのはなぜですか。
9 「新世界訳」は130以上の言語で発行されており,そのすべてが聖書中の正当な箇所に神の名を含めることにより,み名を尊んでいます。(マラキ 3:16を読む。)それとは対照的に,現代の聖書翻訳の大半は,神の名を省き,代わりに「主」などの称号や,地元の神の名を用いています。そのようなわけでエホバの証人の統治体は,神の名を尊ぶ聖書をできるだけ多くの人に提供することを優先事項としています。
明快で正確な翻訳
10,11. 英語以外の言語の「新世界訳」の翻訳者たちは,どんな問題に直面しましたか。
10 聖書を数多くの言語に翻訳する過程で,幾つもの問題が生じました。例えば,英語の「新世界訳」はかつて,他の幾つかの英語聖書と同様,伝道の書 9章10節などでヘブライ語の「シェオル」を用いていました。その聖句はこうなっています。「シェオル,すなわちあなたの行こうとしている場所には,業も企ても知識も知恵もない」。しかし,英語以外の多くの言語の翻訳者たちは問題に直面しました。「シェオル」は読者のほとんどが知らない言葉であり,辞書にも載っていません。どこかの地名のようにも聞こえます。そのため,「シェオル」およびそれに相当するギリシャ語の「ハデス」を「墓」と正確に訳すことが承認されました。それらの語の意味を明快に伝えるためです。
11 幾つかの言語では,英語に倣って,ヘブライ語の「ネフェシュ」とギリシャ語の「プシュケー」を一貫して「魂」といった語に訳していましたが,そのため幾らかの混乱が生じました。「魂」という語は,人の非物質的な部分を指すような印象を与えかねなかったからです。「魂」は人間自身ではなく幽霊のようなものであると受け取られるおそれがありました。そのため,この語を,「新世界訳聖書 ― 参照資料付き」の付録に挙げられている幾つかの意味に基づき,文脈に沿って翻訳することが承認されました。聖句をすぐに理解できるようにすることが優先事項とされ,参考になる別の訳語は脚注に記されました。
12. 「新世界訳」2013年改訂版には,どんな変更点がありますか。(この号の「『新世界訳』2013年英語改訂版」という記事も参照。)
12 翻訳者たちからの質問により,ほかにも同様の誤解が生じ得る箇所のあることが分かりました。そのため統治体は2007年9月,英語版の改訂を承認しました。改訂作業の際,聖書翻訳者たちからの幾千もの質問が検討されました。古風な英語表現は調整され,正確さを損なうことなく明快で理解しやすい訳にするために一致した努力が払われました。他の言語でなされた工夫を適用することにより,英語の翻訳が研がれたのです。―箴 27:17。
感謝の言葉
13. 2013年改訂版について,どんな感想が寄せられていますか。
13 英語の「新世界訳」改訂版を読んだ人たちはどう感じているでしょうか。エホバの証人のブルックリン本部に,幾千通もの感謝の手紙が届いています。次の姉妹のコメントには,多くの人の気持ちが表われています。「聖書は,宝石のいっぱい詰まった宝箱です。2013年版でエホバの言葉を読むと,宝石一つ一つをじっくり眺め,すばらしいカットや透明度,色合い,美しさを味わうことができます。分かりやすい言葉に訳されているので,エホバがずっと身近な方になりました。エホバがお父さんのようにわたしを腕に抱いて,心の安らぐ言葉で話しかけてくださっているように感じます」。
14,15. 英語以外の「新世界訳」にもどんな反響がありましたか。
14 大きな反響があったのは,英語の「新世界訳」改訂版だけではありません。ブルガリアのソフィアに住む高齢の男性は,ブルガリア語版についてこう述べています。「聖書を長年読んでいますが,これほど理解しやすくて心に響く訳を読んだことはありません」。アルバニアの姉妹も「新世界訳」全巻を受け取って,こう言いました。「神の言葉が,本当に美しいアルバニア語でつづられています! エホバが私たちの言語で話しかけてくださるとは,何とうれしいことでしょう」。
15 多くの国では,聖書が高価で手に入りにくいため,自分の聖書を持てるだけでも大きな祝福です。ルワンダから次のような報告が寄せられています。「長い間,多くの研究生は進歩しませんでした。聖書を持っていなかったからです。地元の教会の聖書は高くて買えませんでした。しかも,聖句の意味がよく理解できないために進歩が滞ることもありました」。しかし,「新世界訳」が母語で読めるようになって,状況は変わりました。十代の子どもが4人いる家族はこう言っています。「この聖書を与えてくださったエホバと忠実で思慮深い奴隷に心から感謝しています。わたしたちはとても貧しいので,家族全員の聖書を買うお金はありませんでした。でも今では,一人一人が自分用の聖書を持っています。エホバへの感謝を表わすため,毎日,家族で聖書を読んでいます」。
16,17. (イ)エホバはご自分の民に関して何を望んでおられますか。(ロ)わたしたちは,どうしたいと思いますか。
16 「新世界訳」改訂版は,今後もっと多くの言語で発行されます。サタンはそれを阻もうとしますが,わたしたちが知っているとおり,エホバは神の民すべてに明快な理解しやすい言葉で語りかけ,その言葉を聞かせたいと望んでおられます。(イザヤ 30:21を読む。)「水が海を覆っているように,地は必ずエホバについての知識で満ちる」のです。―イザ 11:9。
17 神の名を尊ぶ「新世界訳」など,エホバからの贈り物すべてをぜひ活用しましょう。毎日,み言葉を通して神に語りかけていただきましょう。無限の力を持たれる神は,わたしたちの祈りすべてに注意深く耳を傾けることができます。このようなコミュニケーションにより,わたしたちはエホバをいっそう親しく知り,エホバへの愛を深めてゆけるのです。―ヨハ 17:3。
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